なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2008/12/4 木曜日   ツキノワグマ日記

クマの死体をみないワケ…


猟師の岩さんは、子供のときにツキノワグマに襲われて片目を失った。
涙腺を切られ、60年経った現在でも涙が容赦なく垂れてきて困るという。
顔面に負ったクマの深い爪あとを治すために、これまでに何回もの手術も受けてきた。大変な不自由をして現在でも生きているのだが、岩さんの人生はクマに襲われたその時から変わったという。

岩さんを襲ったクマは、手負い熊だった。
小学5年生の時に、学校へ向かう通学路で襲われたのだった。
なんの落ち度もない岩さんを突然クマが襲い、岩さんは計り知れない人生のダメージを受けてしまったのである。

以来、岩さんは自分の人生をむりやり変えられたクマのあだ討ちをするために、猟師になった。
2年前に、そんな岩さんにはじめて出会ったが、だからといって無差別にツキノワグマを殺しまくるというような猟師ではなかった。
たった独りで山にはいり、自分の人生を振り返りながら、いつもクマと向き合っていたからである。
それだけ、岩さんにも、クマのことを知りたいという気持ちが働いているからだ。

そんな岩さんから、電話があった。

「宮崎さん、○○山でオレ5日ほど前に熊を撃っただに
3匹いてなぁー、大きさはどれも同じくらいだった
そこで、真ん中のを撃ったん、なぁ
見事に当たって、クマはもんどりうってぶっ倒れた、さぁー
あと2匹も撃てたけれど、オレ独りだから、持ち帰れねえし、撃たなんだ
だけどよぅ、撃ったクマは80kgほどあったから、オレ独りでは引き上げることもできんのなぁ
そこで、血抜きの処理だけしておいて、翌日に仲間を連れて引き上げに行ったん、だに
仲間も仕事休んで手伝ってくれたけれど、そこでぶったまげたんだぁー
クマの体半身が何者かに食われてしまってなくなっていたんだ、よぅ
それも、脂身のいいところばっかりを食われていたん、さぁー

クマなんて、タヌキもキツネもみーーんな恐れをなしているから死体を食わないということをオレは聞いている
なのに、たった一晩で半身も食っていったやつがいたんだぁー
オレには、その意味がちっともわかんねえから、教えてくれんか、なぁー

で、逃がした残りの2頭のクマだが、誰か知らないけれど、オレが撃ったあと3日ほどのうちに近所で3頭もの熊を捕ったというにぃ
○○山にも、クマはかなり増えてきているぜぇ
場所教えるから、近いうちに現場まで一緒に行ってくれんか、なぁー? 」

この電話にはボク自身もぶったまげた。しかし、ある予測をこれまでにもしていたことであるから大きなヒントをもらったと思った。
それは、ツキノワグマは「共食い」を積極的にしているらしい、ということである。
ボクは40年のキャリアをもって自然界を見てきているが、これまで一度もツキノワグマの死体に出会ったことがないからである。
カモシカやニホンジカ、イノシシやサルなど他の野生動物の死体には何回か出会ってきている。
しかし、ツキノワグマだけは、骨のかけら一本も見たことがない、からである。
このことだけは、長年にわたるボク自身の疑問点だった。
しかも、山に精通している仲間に聞いてもみんな異口同音に「熊の死体だけは見たことがない」、という。

これほど謎が多いと、そこはやはり知ってみたいという好奇心がでてくる。
これは、なんとしてもその理由を探らなければならない、とボクは思うからである。
ツキノワグマが「共食い」をするという条件でこれまで経験してきているクマたちからのサインを分析すれば、やはりそこにはそれを裏付けるような観察結果もあるからだ。

岩さんとは、年内に現場へ出かける約束をした。
その現場で、ボク自身のアンテナがどこまでサインをキャッチするか、とても楽しみである。

写真:これはつい3日ほど前に射止められた熊。2008年度の熊も、しっかり脂がのって痩せてはいない。2006年から何頭もの熊の解体を見てきているが、「餌不足で痩せている」熊なんてどこにも見当たらない。ツキノワグマのすべてを語るには、猟師とも知り合い、猟師だけが見ている現場からの発見も聞き、それを分析することが絶対に必要だとボクは思っている。しかも、確実に分析できる力を身につけることも大切なことである。

(from/ gaku )

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