なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2006/11/13 月曜日   研究

平成時代ツキノワグマの現実を知らない小娘の独り言

麻酔クマ

先日、伊那谷のある村で行われたツキノワグマの「学習放獣」の現場に立ち合わせてもらった。

村役場の職員や地元新聞記者、捕獲現場となった養魚場職員らと「○○ツキノワグマ研究会」の行う手順を見学させてもらったのである。

ドラムカン檻にかかったツキノワグマに吹き矢で麻酔を打ち眠り込んでいる状態で、体重をはかり性別を確認する。そのあと、耳にタグを打ち込み、歯を抜き、血液を抜き、体毛をむしりとる。

まあ、ここまでは研究用のサンプル確保には欠かせない作業であったから納得がいった。

ここで、作業を手伝わずに腕組みをしていた小娘がひとりいた。

そのときに発した言葉が、

小娘 『クマは道路などで移動できなくなって孤立してしまうから絶滅してしまうのです。』

これは、誰にいっているでなく、そこを見物している私たち全員に向かっていたようだった。

ここでボクは、

「どこかで使い古されたことのある発言だ。しかし、ここは信州の中央アルプス山麓である。信州は北アルプス、中央アルプス、南アルプスという巨大な山脈群が日本の屋根をなす山岳県だ。道路によってツキノワグマの移動が寸断されて孤立群となるハズがない。確かに、日本国内のある地域によっては道路や市街で孤立群となるツキノワグマがいるかもしれないが、それを全国標準として当てはめられてもこまる。

そんなことを言うこの娘は、信州育ちで信州暮らしなら、足元の信州の自然をまったく理解していないことだし、都会からボランティアでやってきているのなら、ツキノワグマと自然界のことをあまりにも画一的一面的でしか見ていない恥ずかしい発言…」だ、と思った。

こんなことを、一瞬のうちにボクの頭のなかでは駆け巡ったが、それに対してボクが代表で答えてあげた。

gaku 『あのねぇー ツキノワグマなんて高速道路を渡っています、よ。』

小娘 『っえ、えーー、クマが高速道路を渡るのですか…?

    そんなことをすれば、車にひかれて危ないじゃあない、ですかぁー 』

gaku 『あんねぇー 、クマは橋の下などを渡っているのです、よぅ。』

小娘 『橋の下ぁー クマがそんなことするのですかぁー 』

キンキン声で耳の上からしゃべるタレント女がいるが、まさにそんな声での小娘に、それ以上の説明をする必要がないと思ったから以後ボクは無視をつづけた。

「○○ツキノワグマ研究会」のメンバーなら、もっとツキノワグマのことを知っていてもいいと思った。

これでは、あまりにもお粗末であり、そこに居並ぶ役場の職員など関係者からもレベルを疑われてしまうというものだ。

中央アルプス山麓のツキノワグマが、いま現在どのような行動をしているかは地元の人たちがちゃんと知っていることであり、

自然を語るにはどこまで自然を理解できているかといった「ベース」が必要であって、それを語る「レベル」も要求される。

これでは、お姉さん、あまりにもお粗末すぎます、ぜ。

ボクらに無視されたあとの彼女のダメ押しは、麻酔をくらってのびたツキノワグマの額を手のひらで撫でながら

『かわいいねぇー おお かわいい …』、だった。

そんなに可愛いのなら

「熊の子供でも産むがいい」

「ほっぺたの肉でも引掻いてもらえば少しは目が覚めるだろう…」

あとで、誰彼となくこんな言葉が漏れていた。

こうした会話のあと、眠っているクマを再びドラムカン檻に押し込むまでが「○○ツキノワグマ研究会」の仕事だった。

このあと、村役場の職員がトラックに載せて10kmほど離れた山へ放しにいったのである。

これが、ツキノワグマの「学習放獣」の一部始終だった。

はたして、ツキノワグマはいったい何を学習したのだろう、か?

そして、ここでいちばん得をしたのは、サンプル標本を入手した研究会そのものではないかと思った。

写真:麻酔をうたれて眠っているクマなら、小娘でも額を撫でることはできる。

(from/ gaku )

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