なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/7/7 木曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマ観察は車中が安全

いま、ツキノワグマの第4ステージをつくっている。
中央アルプスのいろんなところで、標高別に撮影現場を展開しているからだ。
その4番目となる現場づくり。

この現場は、標高がおよそ1200メートル。
山林地主からの許可も得たので、「クマクール」を設置しながら直接観察の準備も進めている。
車を持ち込むことができる場所なので、車の中からの観察も久しぶりにしてみたいからだ。

以前にも、ツキノワグマの撮影では車を利用して観察をしてきたことがある。
そのときから思っていることだが、相手は何を考えているのか分からない動物だし、どのような行動にでてくるかも分からないので、テントより車のほうが安全といえる。
しかも、夜間は、ツキノワグマのほうがオイラより絶対的に有利な立場にいるので、視界の広い車が何かと便利なのだ。

ツキノワグマは車をまったく警戒しないことは、すでに分かっている。
その昔、仮眠中のオイラを確認するためにツキノワグマが音もなく忍び寄ってきて車に手をかけフロントガラスからのぞいたヤツがいた。
ゆさゆさと車が揺れたので飛び起きたら、でっかい熊の頭のシルエットが助手席にあったのにはたまげた、ものだ。
このような経験があるから、熊は車なんて平気なんだ、と知った。
テントでのリスクもこうした経験から悟り、もう30年以上もオイラはフィールドではテントを使わないことにしている。
だって、熊にテントを襲われれば、すぐ潰れるし、ファスナーを中から開けることもできない。
潰されたテントの中でもがいていれば、次に熊の一撃が待っていると思わなくてはならないだろう。
だから、再び熊の直接観察をしてみたくなったとき、車を使える現場を探していたのである。

直接観察といっても、かなりのハイテク機器は使う。
まず、いつ出現するかわからないツキノワグマを虎視眈々と緊張して待つようなムダな時間はつくりたくない。そんなことをしていれば、寝不足で体力の消耗はたいへんなものだ。
このため、ツキノワグマがやってくれば、彼らの動きをセンサーがキャッチして、車中のオイラにしらせてくれるという装置である。
この装置は、夜行性のフクロウを10年間もやったときにすでに実証済みだから、アイデアのほとんどが流用できる。
これさえあれば、車中で安心して仮眠もとれるし食事やPCだってやれる。
また、赤外線映像をワイヤレスで送ってくる装置とか、車中からでも観察ができる望遠レンズ交換式のIRカメラまで自分で製作した。
もちろん、赤外線のライトコントロールも車中からできるようにしてある。
まさに、ハイテクとローテクを併用しての観察である。

このような準備もあって、現場には何回も通っている。
ときには夕方うす暗くなってしまうこともあるが、現場にいると殺気で背筋が寒くなることもある。
この現場にはすでにツキノワグマが日常的に出没しているので、熊のむわんという「体臭」を送ってくることもあるし、「オレはここに来ているんだぜ」といわんばかりに鮮度のいい糞をどさりと置いていったりすることもある。
たぶん、藪陰から息を殺してオイラをじっと見つめている熊がいる、のだろう。
そんな熊を、こんどはオイラがハイテク装置で覗いてしまう番である。

写真:
夜間クマが木に登ってきた。木の幹で遊んでいたカマドウマは、さっさっと幹の裏側にまわってやり過ごそうとした。だが、クマは座り込んでしまった。だから、カマドウマはどうするべきか困っている。

(from/ gaku )

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10 Comments

  1. まったく仰せの通りだと思います。
    私なんか猟を始めてから、丸腰で山に入るのが怖くなってしまいました。
    出猟した時も、ここでピバーグすればもう少し奥まで行けるけど‥、と考える事もあるのですが、なんか嫌なんですよね。
    あとどれだけ気温が下がるか分からないし。

    そう言えば先猟期、デカイ猪を獲り損ねたのですが、弾が外れた後、近くの藪に逃げ込んでこっちを唸って威嚇してました。
    銃を持ってれば問題無いのですが、丸腰だと猪でも嫌ですね。

    Comment by いち猟師 — 2011/7/8 金曜日 @ 21:28:28

  2. 数年前、上高地の河童橋近くのキャンプ場で、
    夜テントに遊びに来たクマで大騒ぎになったことがあります。
    あちこちで悲鳴があがっていましたが、特に事故もなく、
    クマも去っていきました。
    ちょうどその日の昼間、河童橋近くの川を堂々とクマが渡っていて、驚いてしまいました。
    やはりクマのいる場所でのキャンプは要注意だと思いました。

    Comment by kana — 2011/7/10 日曜日 @ 13:51:08

  3. Gakuさんのハイテク観察・撮影機器でとらえた写真、楽しみです。
    ツキノワグマが車を襲ったという話は聞いたことがありませんが、たまらない緊張感でしょうね。

    ところで当地秋田、先日、ツキノワグマが里山に数十本あるクワの木で実を食べた跡があったので、
    実を食べているクマの姿を思い描き、日中望みましたが空振りでした。
    少し範囲が広いので、クマは何頭かいます。
    1週間くらい前からは、同じ場所でヤマザクラの実を食べています。
    そのうち姿を出すだろうと考え、見やすい場所で、暗くなるまで何日か粘りましたが、これも空振りです。
    Gakuさんが撮影するとなれば夜でしょうが、どのようにするだろうか、などと想像したり、やはり日中はムリか、とも思いつつ、また出向く状態です。

    Comment by akke — 2011/7/13 水曜日 @ 7:35:57

  4. ■いち猟師 さん
    ボクは、夜間でも丸腰で山中を歩きますので、ほんとうに緊張します。
    五感のすべてをフル稼働させて、自分自身の身の安全をはかっていますが、逆に動物を追い返してしまうこともあり、その板挟みに悩むところです。

    ■kana  さん
    上高地では、大変な経験をしたものですね!
    最近は、「山ガール」「森ガール」さんが増えてきましたので、「山の神」の存在を女性はきっちり理解しなければならないと思います。
    クマは、こちらでもほんと人家のすぐ脇まできていますが、ボク以外すべての人は知らずに生活しています。
    そのギャップを知るほど、ボクも山中ではかなり緊張度を高めて仕事をしています。

    ■akke さん
    クマは、サクランボもクワの実も大好きですから、それだけの痕跡があれば確実に出会えると思います。
    そうした観察もムダではないですから、あるヒントに出会えば一気に解決するのではないでしょうか。

    Comment by gaku — 2011/7/16 土曜日 @ 9:21:13

  5. 上高地の小梨平や徳沢園あたりのキャンプ場にクマが出没するという話はかなり以前に聞いたことがあります。テントの外に置いてあった食料がやられたとか。また、上高地から岳沢に向かうルートではしばしばツキノワグマが目撃されているようです。

    最近は山ブームで、山関係の雑誌で山メシ特集なども組まれているようですが、キャンプ場での調理の匂いってクマを結構刺激しているのではと思ったりします。クマの嗅覚は、犬あたりと比べてどんなレベルなんでしょうかね。

    上高地といえば、奥穂高岳から西穂高岳の縦走路は標高3000m近くの岩場の難所が連なる上級者向けのコースで、その途中に畳岩尾根というのがあるのですが、そこのスラブ(岩の斜面)をクマが登っているところをたまたま捉えた写真をネットで見かけたことがあります。(ブックマークし忘れたので、再度見つけることができませんでしたが)

    森林限界を超えて、せいぜいハイマツ程度しかない稜線の危険な岩場でこのクマが何を思って岩登りをしていたのかわかりませんが、左右が切り立った岩稜の縦走路でクマと鉢合わせするという場面はあってほしくないです。

    Comment by 山歩人 — 2011/7/19 火曜日 @ 22:28:53

  6. ■山歩人 さん
    >クマの嗅覚は、犬あたりと比べてどんなレベルなんでしょうかね。

    相当な感度だと思いますよ。犬とほぼ一緒ないし、それ以上だと思います。ただ、犬と熊では食事嗜好が違いますから、自分の餌を探したりするときの「特化」嗅覚感度のことを言ったまでですが。

    ハイマツ帯にも、熊はかなり出没しています。夜間など、その観察例がないだけであって、高山植物の種子は最高のご馳走だからです。

    Comment by gaku — 2011/7/23 土曜日 @ 7:47:59

  7. >相当な感度だと思いますよ。犬とほぼ一緒ないし、それ以上だと思います。
    そういえば本で読んだことがあります。クマを追うマタギはタバコを吸わない。タバコの臭いがしみついているとクマはそれを敏感に察知して逃げてしまうから、とか。

    >ハイマツ帯にも、熊はかなり出没しています。
    以前乗鞍岳の畳平でクマが大暴れした時、森林限界を超えた3000m近辺にクマがいたことについて、ハイマツの実など食べて云々という話があったような気がします。上高地どころか、森林限界を超えた稜線でのテント場でも注意が必要ということですね。

    Comment by 山歩人 — 2011/7/24 日曜日 @ 0:08:44

  8. akke さん
    以前友人のランクルの前輪フェンダーが大きなクマにかじられたのを見たことがあります。
    友人が「道路に下りてきたクマを見つけてブレーキをかけたけどクマにぶつかった」と言うので見てみたらしっかり歯の跡がありました。

    クマの臭覚は相当な感度ですが、集中したときに発揮されると思います。
    目は視野が狭く行動中は周りが良く見えないようです。
    猟師はクマが動いているときに接近し、動きを止めたら停止します。

    人を恐れないクマが増えているように思います。
    最近わかったのですが、まだ蛇を見たことが無い小熊でもマムシを怖がります。

    Comment by bbear — 2011/7/24 日曜日 @ 15:33:00

  9. 何年か前に徳島県の山道でトラックを止めて居眠りしていた運転手が
    音がするのでみてみると何とタイヤにクマがかじりついていたのを
    運転手がしっかりと携帯で写真にとっていたことがありました。
    よっぽどお腹がすいていたのかもしれませんが、クマというのは
    思わぬ行動をするものですね。

    Comment by ロータス — 2011/8/1 月曜日 @ 16:27:35

  10. ■bbear さん
    こちらでも、林道を乗用車で走っていて熊をひっかけてしまった人がいます。
    その熊は、猛烈に怒って、乗用車をガリガリ齧ったり爪を立てて抵抗したので、車は傷だらけでした。

    ■ロータス さん
    タイヤを齧る熊とは、笑えますがなかなかに面白い行動だと思います。
    停車中の車は、ほんとうに警戒しないものでして、ボクもフロントガラスから覗き込まれたことあります。
    ほんとうに、こちらが考えている以上に熊は大胆な行動をとるものです。

    Comment by gaku — 2011/8/5 金曜日 @ 15:00:50

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