なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/6/22 水曜日   ツキノワグマ日記

全国各地のツキノワグマ事情

昨年の晩秋から今年(2011年)の5月連休にかけて、九州から本州全域各地の山並み環境を見てまわった。
ツキノワグマの生息状況を自分なりに把握しておきたかった、からだ。
それには、山地の地形と規模、樹木の種類、樹齢、密度を見ることで、これまでの経験を加味すればおおよそのツキノワグマ生息がオイラには見当がつくからである。
そうした環境を目撃するには、広葉樹の葉の落ちた冬期間がもっとも全体像を知ることができるから大急ぎで各地をまわったまでである。

芽吹き前ならば「クマ棚」も見つけやすいし、クマ棚があるということは確実にツキノワグマが行動したことを意味する。
そのクマ棚だけで生息頭数を割り出すことはできないが、これまでの経験として周囲に潜伏行動しているツキノワグマの全体像のおおよそは地形環境でかなりの割り出しができる。
また、クマ棚は信頼できるツキノワグマの行動痕跡にはちがいないが、クマ棚をまったくつくらない個体や地域文化も絶対にあるので、そんなところも各地の山容をみて樹種や樹齢、密度で見当をつけることも考えていた。
だから、とりあえずは北海道を除く本州以南の全域を自分の目で確認して、我が身の直感力を育てておく必要もあったからだ。

簡単にいえば、全国各地にツキノワグマはものすごい数で潜伏生息している、と確信をもった。
ただ、それを確認すべきスキルをもてないから、みんな「いない」ことになってしまうのだ。
クマ棚だけでなく、高性能な無人撮影ロボットカメラで探れば、ほとんどどの地域でもツキノワグマは記録されるであろう。
機材がどんなに高性能でも、各地域で自然環境を読み、ツキノワグマがどのように行動しているのかといったスキルがあってロボットカメラの性能を最大限に引き出せるというものだが、どうもそれがネックとなっているからツキノワグマを語れないのだ、と思っている。

ツキノワグマは、オイラにとっては日本の野生動物のなかでもほんの通過点にあるだけの動物である。
キツネやタヌキだって、きちんと行動把握ができていればピンポイントで理想とする「絵コンテ」どおりの撮影はできるものだ。
だから、ツキノワグマだってそのところの要領はまったく同じ。
なので、キツネやタヌキをきちんと狙い通りに撮影できなければ、ツキノワグマだって撮影は不可能だから、ロボットカメラを設置するのも不効率ということになるのである。
このことは、撮影だけでなく、観察目撃することともまったく同次元と考えなければならない。

このように、日本の自然環境や野生動物をきちんと見届けられないまま、時代は混沌としてしまった。
ほとんどの写真家はアフリカやアラスカなど、海外の国立公園のようなところに安易に被写体を求めてでかけてしまったし。
国内を撮影するカメラマンは、温泉に入るニホンザルとかハクチョウやタンチョウが餌づけされ保護されているような場所だけで撮影を繰り返し。
それらを受け入れる一般読者は、それだけをあたかも「野生動物の世界」と見せられて安心してきたところがある。
実は、全国各地の足元には日本古来からの野生動物たちが普通に生息しているのに、それらを的確な視線で目撃しながら探求していくといった姿勢がなくなってしまったからだ。
これでは、全国的にどんなにすばらしい環境が残りそこにツキノワグマが多数生息していたとしても、そのことを認識できない人間ばかりになってしまったといえる。

とにかく、ツキノワグマに関心があるのならば、全国各地の地域で時間と身銭を切り探究心を膨らませて足元のフィールドを再確認するべきだろう。
ツキノワグマは「いない」のではなく、必ず「いる」のだといった視点で自然環境を見なければならないからだ。
それには、キツネやタヌキをも確実に観察できるようにならなければ次なるハードルは越せないと思う。

秋田県田沢湖でみた「クマ棚」。秋田県にはクマ棚は少ないがツキノワグマは多数生息していた。

群馬県尾瀬でみたウワミズザクラの「クマ棚」。

群馬県でみた多数のクヌギの「クマ棚」。


この「クマ棚」は1頭の仕業か。群馬県。

長野県ではこんなに「クマ棚」があるのにほとんどの住民は気づいてない。

同じクリの木でも、年によっては「クマ棚」のできないこともある。が、しかし2010年は木の下に複数の別個体ツキノワグマがやってきていた。http://tukinowaguma.net/archives/717

養魚場に夜間出没してきたツキノワグマだが、魚をまったく捕食しない熊もいるし、大好物の熊もいるので「クマ棚」だけで生息数を判断してはならない。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

11 Comments

  1. こんにちは!昨年11月以来、2度目の書き込みです。折に触れてバックナンバーも辿りながら読まさせていただいております。常に斬新な発想で、野に生きるものたちとともに社会を捉えるこのブログは面白さ100%です。

    ほんの数例だけ感想を書かせていただけば「なぜサル(や他の動物たち)は激増したのか」という疑問に対し、ここに書かれた「塩カルサプリメント効果」の記事は、激増し始めた時期も含めて、その独想性と説得力に衝撃を受けました。また「ドングリ受け入れ企画」にも「それじゃオレがいっちょう確かめてやるぜ!」といった気概をひしひしと感じます。

    さて当方は4/18のクマ探索開始以来、北アルプス各地において、1ヶ月のうちに昨年1年間を上回る21回のツキノワグマの目撃遭遇を果たしています。そのすべてのクマは昨年の「約4000頭捕殺」を逃れた「生き残りグマ」で、まだ今年生まれの子グマには1頭も出会っていません。つまり昨年の大量捕殺による減少はまったく感じられず、現地の鉄砲撃ちに聞いても同様な印象だと言います。ツキノワグマの生息する各地からの目撃や事故のニュースも、例年と変わらずに入り続けているように思います。

    ここに書き込みしたのは、この秋の北アルプス日本海側地域でのブナの実りが、2005年以来6年ぶりに「大豊作確定的」だということです。前回大豊作の翌年(’06年)には、人里や市街地に至るまでのクマ大出現がありました。人的被害も多かったため、この年の捕殺数は約5000頭に上り、ツキノワグマの推定生息数1万5000〜2万5000頭という数字を基にしていたクマ研究者たちや、野次馬の自分までもが「絶滅危惧」したわけです。(以前の書き込みとの内容重複をご容赦ください)

    その予想に反してツキノワグマは人里に出現し続け、また捕殺もされ続け、’06年から昨年までの5年間の累計で、ざっと1万3000頭超が殺されている。しかしそれでも減るどころか宮崎さんの調査や冒頭に書いた理由などから、現在は’05年以前と比べてかなりの地域でクマは増えている(ボトムアップ状態)と推定できます。そこへ「ドングリ類大豊作」を受けての「出産ラッシュ」と「豊作の翌年は不作」とが重なるであろう2012年、人里や一部市街地には、かつてない

    「ツキノワグマ、史上最大の襲来!」

    となるかもしれないと、現在「出没危惧」しているところです。’06年(それ以前は未調査)以来の「隔年(偶数年)大出現」というサイクルとも合致し、これはクマの「出産周期」とも符合しますね。ブナに依存しない地域での、クマが好むミズナラやコナラ、オニクルミ、クリ、クヌギといった堅果類の豊凶はもうしばらく経たないとはっきりしませんが、豊凶は樹種を超えて同調することが多く、いちおう読者報告いたしました。ではまた!

    Comment by ぴかぶうの雇い主 — 2011/6/22 水曜日 @ 16:58:27

  2. >ハクチョウやタンチョウ・・・
    三井のカルガモってのもありましたっけね。

    Comment by くまがい — 2011/6/23 木曜日 @ 3:22:31

  3. はじめまして。
    興味深く拝見しました。ところで「クマは確実に増えている」という主張について少しだけ疑問があります。人里近い地域でクマの出没が増えていたとしても、必ずしもクマの総数が増えていることにはならないのではないでしょうか?森全体の危機的な状況を考えれば、見えない部分でやはりクマは減っているという可能性はありませんか。人里への出没も、それだけ本来の生息地が荒廃していることを示すことにならないでしょうか。

    Comment by くまた — 2011/6/23 木曜日 @ 12:41:31

  4. 上の「くまたさん」へ

    こんにちは。くまたさんの考える「クマは減っているという可能性」を示す、具体的な根拠やデータって、いったいどこにあるのでしょう。探しているんです。あなたの抱いた疑問の前提となる、

    「森全体の危機的な状況」

    「本来の生息地の荒廃」

    という2点について、具体的にどう「危機的で荒廃」しているのかを、ぜひここで説明していただけませんか?また、どの地域でツキノワグマを観察されているのでしょうか。

    自分の経験ではツキノワグマという動物は森林依存度が高く「見つけるんだ」という確固たる意志を持って見ようと思わなければ、直接観察が難しい動物です。観察の困難さは北海道のヒグマの比ではないでしょう。ただ漠然と山を眺めていると→その存在がわからない→いない→減っている……という安易な論法に陥ってしまいます。

    くまたさんと同様な話をされる方には、自分の観察フィールドの北アルプスでもよく出会います。たとえあなたがフィールドに出て調査をされていなかったとしても、ツキノワグマの現状を判断する資料は「このブログ」に満載されていますよ。一緒に『ツキノワグマ事件簿』のバックナンバーを読みながら、考えていこうではありませんか。では!

    Comment by ぴかぶうの雇い主 — 2011/6/23 木曜日 @ 14:27:36

  5. 初めまして。
    アウトドアでのスポーツや行楽が好きなので普段から熊の生態について興味があったのですが、どこか納得がいかず調べているうちにたどり着きました。
    とてもよく調べられていて、本当に勉強になります。
    そしてこれからも読ませていただきます。
    ド素人で恐縮ですが、一言いわせていただきたくコメントいたしました。
    失礼いたします。

    Comment by 125 — 2011/6/29 水曜日 @ 7:40:35

  6. ■ぴかぶうの雇い主 さん
    北アルプスで実践をやられているようですね。
    やはり、フィールドをやらなければ分からないことが、オイラのブログにはたくさんちりばめてあります。
    もっとも、さらに奥深くまで自然界を洞察できてないと、オイラの言葉の「裏」に隠されているところまでは到達できないでしょう。
    ここで表現していることは、ほんとわずかなものですから、やはりツキノワグマは奥が深いです。
    だから、「熊」という字を書くのですね。

    ■くまがい さん
    「三井のカモ」…、ね。
    世間はだいぶ飽きてきてますが、やはり送り手としては絶えず時代を読み鮮度のいい発信をしていかなければならないと思っています。

    ■くまた さん
    「森全体の危機的な状況」
    「本来の生息地の荒廃」

    などを、オイラもお聞きしようと思っていたら、「ぴかぶうの雇い主」さんがすでに質問されていました。
    あなた自身の現場で得た感想としてのカキコミだとしたら、あまりにも日本の自然環境を読む力がない人だと感じます。
    「となりのツキノワグマ」にも、現在のツキノワグマ事情をしっかり書いてありますし、このブログを全部読んでいただければ、あなたのような質問にはたどりつかないと思います。
    あなたの言葉で、再度、ご意見をお聞かせできませんか?

    ■125 さん
    自然に入り込むには、セオリーはありません。
    とにかく、各地それぞれの自然環境のなかで、自分自身の判断で答えをだしていくしかありません。
    ツキノワグマはほんとうに身近なところにいますから、アウトドア活動ではそのことを絶えず視野にいれておく必要があります。

    Comment by gaku — 2011/7/1 金曜日 @ 7:58:06

  7. はじめまして飛び入りで少しコメントさしてください。クマをはじめ現在の日本の森林から野生動物が絶滅するようなことはありえないと思っています。クマにしろシカにしろ日本全国で相当数が捕殺されています。シカについては、関西では1市で平成22年度に4000頭を超える捕殺がありましたが農林業被害についてはよこばいのままです。クマについては、現場で捕殺か放すかを決定しているようです。どちらにしても野生動物の数を捕殺等でヒトがコントロールしようとしたとしてもやつらはヒトと関係なく勝手に生きていくので心配することはないと思います。各地で様々、活動されている方が多いと思います。みな、自分の知りたいことを追及していると思うので好きなことをやり表現し社会にアプローチしていけばいいんではないでしょうか。私が思うにはだれもが同じことをやってもおもしろくないしいろんな手法で各人がやれることをやり、これからの野生動物の状況をみていけばいいのではないでしょうか。私もぼちぼち自分のやれる範囲で行動していきたいと思います。

     上記の「森林全体の危機的な状況」「本来の生息地の荒廃」についてフォローしたいと思います。これは、知らない方もおられるかもわかりませんがニホンジカによる森林内部の高食圧による下層植生の衰退もしくは消失がおきているところが現在増加しているということをさしておられると思います。私もそのような場所で生活しているので、これは事実です。これらシカによる森林の衰退が起きさらなる大雨被害で土砂流出が起き、山村では危険な個所が増えてきています。大雨がくればシカによって植生が衰退した個所では土砂がたびたびながれており、今後はこのような土砂災害が発生した場合、シカの食害があったのかなかったのかなど検討することも将来必要になってくるかもわかりません。人間の人命が、現在シカによっておびやかされている場所があるという事実があります。

     かといって私は、シカが原因で他の野生生物が影響し絶滅まで追い込まれることはなく、やつらは生きていきくので心配する必要はなく、先にヒトの生活が脅かされている状況だと思います。

     これまでも生き抜いてきた種なのだから問題ないですよ。ヒトが自然をコントロールできるわけでもないので、みなさん自分の知りたいことを好きなようにできる範囲で行動し、獣たちを見ていこうではありませんか!!

    Comment by 飛び入り野郎 — 2011/7/3 日曜日 @ 19:39:50

  8. ■飛び入り野郎 さん

    まさに、おっしゃるとおりです。
    ただ、時代に合わせた「視点」「感覚」での判断は必要だと思います。
    それには、各地各自でレベルアップしてセンスある答えを求めていくことではないでしょうか。

    Comment by gaku — 2011/7/8 金曜日 @ 7:04:57

  9. 初めてコメントします。日本海側T県で40数年熊猟を主にやっている老ハンターです。くまたさんの「森全体の危機的状況」「本来の生息地の荒廃」について少しコメントを。飛び入りさんは「森全体の危機的状況」は鹿の食害に依る荒廃を指しているのだろう、と指摘されていますがそうなんですか?。私はまた例によって「人の手で山を荒廃させたから熊を初め野生動物が里に下りてくる様になった、だから動物じゃなくて人間が悪いのだ」と言う論法なのかと思いました。当地では隣県にもかかわらずガクさんの存在や学説は余り知られていないようです。ひょとしたら行政や各種保護団体が自分たちに都合が悪いから知らない振りをしているのかも知れませんけどね。数年前の熊の異常出没のさいには、有る団体から被害農家に直接電話があり、いろいろ中傷されたので主人が「あなたは人と熊とではどちらが大事だと思っているのか」と決まり文句を言うと思いもしない答えが返ってきたそうです。曰く「熊に決まっている、嫌ならおまえがそこから引っ越ししろ」。これは極端な例ですが事ほど左様に「似非保護団体」の言動にはほんとに困っています。それと本来の生息地と言うのはどういう所を指しているのでしょうかね。ぜひ教えてほしい物です。

    Comment by 老いぼれ猟師 — 2011/8/9 火曜日 @ 18:55:13

  10. ■老いぼれ猟師 さん
    >曰く「熊に決まっている、嫌ならおまえがそこから引っ越ししろ」。

    あまりにも身勝手なひどい言葉ですが、長野県でもクマに襲われて大けがをした少年がおり、そこにも「襲われたほうが悪いのだからクマを殺すな」と行政に何回も電話がありました。
    都会のマンション群の安全圏でもの申す、ほんとうに困った人種がいますが、まあ、そういう人たちも含めてこれからは放射能がジワジワと日本人をいじめていくと思います。
    そのときに、自然の大切さ、取り返しのつかないことをしてしまったことに、みんなが気づいてくれればいいのですが。

    自然に保護されている人間が、「自然を保護」なんてできるハズがありませんから、保護という言葉を使うにも、相当な覚悟と配慮が必要だとボクは考えます。
    なので、ボクは一切「保護団体」には興味がありません。
    あれは、一つの宗教と思っていますので。

    Comment by gaku — 2011/8/11 木曜日 @ 9:49:57

  11. 「人が自然を保護するのではなく、人が自然に保護されているのだ。」
    これは良いフレーズですねー、すばらしいです。
    怪しげな団体が「自然保護」を声高に叫ぶのは日頃から苦々しく思っていました。ましてや野生動物の生息数を人の力でコントロールしようなんておこがましいにも程がありますよねー。かくいう私も行政に依頼されて「有害駆除」の一翼を担っている身ですけどね。

    Comment by 老いぼれ猟師 — 2011/8/11 木曜日 @ 21:19:48

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.

このブログへの訪問者