なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/5/10 火曜日   ツキノワグマ日記

東北地方日本海側のツキノワグマ事情

岩手県の宮古市で旧知の友と酒を飲んでいた。
イヌワシの営巣地がいくつもあるけれど、繁殖成功例がほんとうに少ないと嘆いていた。
ならば、繁殖成功させる努力をしてみることも実験的に必要ではないか。
オイラならオリジナル発想となる実験的プロジェクトアイデアはいくつでもでてくるので、その方法論を紹介してみた。
しかし、やる気のない人だと話の途中でどんどん「気」が抜けていくから、そのオーラで相手の気持ちは瞬時に分かってしまうものである。
ここでは、説明するだけ無駄なことがわかったので、これ以上アイデアの公開は必要ないと思った。
残念なことだが、各地域でいろんなことを長年やっている人は多数いるけれど、それぞれの地域の自然界全体を把握してどう結果に導いていくかといったセンスは各個人の問題である。その地域で何十年間やってキャリアをもっているとしても、センスもなくやる気のない人にはどんな説明も老婆心に終わることがあるので最近のオイラも相手と言葉を選ぶようになってきている。

そんなところへ、青森県と秋田県の知人からメールが入った。
東北地方に旅していることを知った知人らが、寄っていって欲しいということだった。
青森県の知人にはマンツーマンで極意を伝えたかったが、時間的に今回はまわれなかった。
そこで、秋田県に寄ることにした。

秋田県ではツキノワグマをたしかな目線できちんと見ているアマチュアカメラマンがいる。
ネットだけの知人だったが、いつかは会って話しをしてみたいと思っていた気になるカメラマンだった。
そこで、さっそく秋田に立ち寄ることを返信すると、地元で活躍されているアマチュアカメラマンを4人も集めてくれていて歓迎会を開いてくれた。

オイラには、プロでもアマでもその作品をみればどれほどの技術と哲学があるかは見通せる。
秋田県のKさんというそのアマチュアカメラマンは、地域の自然をキチンとしっかり目撃できる哲学をもっていた。
さっそく、翌日にはKさんのフィールドを案内してくれて、有意義な会話もできた。
そして、ブナの木に登っているツキノワグマまで目撃できてしまったからだ。
ツキノワグマとはたったこれだけの出会いであるが、オイラには複眼発想的にたくさんの知見を得ることができた。

よく、ツキノワグマを語るときブナとドングリの実りのことが普通に取りざたされるけれど、そういった肯定論にオイラは疑問をもっていた。
なぜならば、オイラのフィールドである信州のツキノワグマは「ブナ」にはまったく依存していないからだ。
なので、ここはやはりブナに関係する秋田県のツキノワグマの行動とその環境をオイラなりに目撃して把握しておく必要があると思っていた。
そのツキノワグマの観察がわずか1日にしてできてしまったのだから、地元のKさんの日ごろからの観察力には心から敬意を感じた。
これも、Kさんにはツキノワグマだけでなく各種の野生動物たちを撮影してきている実績があるから、それぞれに共通する自然観を会得しているからにちがいないと思った。
このような人はちょっとしたアイデアをアドバイスすれば急成長するタイプなので、本人が希望すればオイラも全面的に協力したいと思った。

このあと、秋田から山形、福島、栃木、群馬、新潟と回って帰宅した。
福島県では、4頭のツキノワグマが木に登っているところを目撃できた。
夕方の薄暗くなった1kmも先の山中だったが、秋田県での観察体験がオイラにはムダではなかったことを確信させた。
また、これらの道中での山野の林層、樹齢、密度などを総合して判断すれば、今日の日本でのツキノワグマの生息状況をオイラなりに分析することができた。
その答えは、日本の今日の自然環境をたしかな視線で目撃できてない人ほど、ツキノワグマを数の少ない「希少種」にさせているということである。

写真上から:
1)ブナの芽吹き。
2)肉眼ではまず見落としてしまうところにツキノワグマがいた。
3)ブナの新芽を食べるツキノワグマ。
4)福島県の山中では親子3頭が木に登っていた。ここからさらに500mほどのところにも別のクマが目撃できた。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

11 Comments

  1. この時期にブナの木に登るツキノワグマの目的は何でしょうか。
    単なる遊び・展望かな。
    それにしても、タイミング良く撮らせてくれましたね。

    Comment by 北の狩人 — 2011/5/12 木曜日 @ 16:55:13

  2. 秋田でツキノワグマ1頭を見て、その後、すぐに福島で4頭を見つけられるとは、さすがに実践で鍛えられた予測力、五感が鋭いです。

    ブナに依存していないツキノワグマがいるなど、地域によって食性が異なるのも興味深い出来事です。

    先日は、刺激を沢山いただき、有り難うございました。

    Comment by akke — 2011/5/12 木曜日 @ 21:37:02

  3. ■北の狩人 さん
    ブナに登るのは、食事です。

    >それにしても、タイミング良く撮らせてくれましたね。
    丁寧に探せば、相当目撃できると思います。

    ■akke さん
    いろいろとありがとうございました。
    福島では、まさに直感力でした。

    Comment by gaku — 2011/5/18 水曜日 @ 23:46:20

  4. 愛知県西部在住で、近場の里山歩きによく出かけてます。昨年のクマ大量出没の頃にこちらのブログを見つけ、クマについて勉強させていただいています。

    愛知万博跡地近くの海上の森や猿投山といったあたりによく出かけています。昨年は愛知県でも海上の森を始めクマの目撃例がありましたので、山に入るときはクマ棚などがないか結構気にしてます。

    ところで、お食事中のクマにニアミスしてしまうと結構危なくないでしょうか。まして、冬眠明けで子連れとなると。

    今月初めのゴールデンウィーク中に三重県鈴鹿の御在所岳で真昼間に子グマが目撃された際の動画がYouTubeにアップされていました(サルだとかイノシシじゃないかというコメントもあるようですが、撮影した人は動画の中でクマと言っています)。
    http://www.youtube.com/watch?v=kZY-mGtjmck
    クマだとすれば、子がいるくらいですから親もいるはずですし、あれだけ広大な山域に1家族はありえないと思います。

    鈴鹿の山はご無沙汰ですが、鈴鹿でクマが出たという話はかつて聞いたことがありませんでしたし、クマはいないと思っていました。ただ、ネット調べてみると、最近はクマらしき目撃例が何件かあるようです。

    やはりクマは増えているのでしょうね。

    Comment by 山歩人 — 2011/5/19 木曜日 @ 20:47:32

  5. ■山歩人 さん
    はじめまして。
    海上の森、猿投山、蒲郡、三ケ日…
    あの辺までは、しっかりツキノワグマが生息していますよ。
    クマ棚をほとんどつくらないタイプの熊たちです。

    三重県の鈴鹿山系のYouTube映像は、まちがいなく熊ですね。
    あの辺は、以前のブログにも書きましたが、福井、岐阜から養老山系、紀伊半島まで山地がすべてつながっていますので、相当数のツキノワグマが生息しています。
    これらの地域の熊たちは、食性にもかなりの差がありますので、クマ棚をつくらないものが多いと思います。
    いずれにしても、地域の方たちの観察眼にかかっていると思いますので、セオリーどおりのこれまでの視点でツキノワグマを見ようとするのではなく大胆な発想転換で自然環境を見つめなおす必要性があると思っています。

    Comment by gaku — 2011/5/22 日曜日 @ 8:07:29

  6. 東北の日本海側に住んでいますが、私も、日本の各地でクマの棲む環境は大きな違いがあるのだと思います。一つの地域のことで全体を判断するのは正しくないと思います。

    Comment by 長南 厚 — 2011/5/22 日曜日 @ 23:50:05

  7. ■長南 厚 さん
    >一つの地域のことで全体を判断するのは正しくないと思います。

    まさに、おっしゃるとおりです。
    あとは、それぞれの地域でそこの自然環境に見合った観察方法を編み出していくのが、クマを語る人々の観察技術だと思います。

    Comment by gaku — 2011/5/24 火曜日 @ 8:01:51

  8. 先日 宮崎学さんが大好きな丹後半島近くの栗田半島という小さな半島に出かけたのですが お腹の調子が急に悪くなり茂みの中ダッシュした時に 熊出没の看板が…
    まさか こんな小さい半島には おらんらろぉ〜って思いましたが 漁港におられた婆さんに聞くと 昔からおるでぇ〜(^-^)との返事。
    もう釣りどころではなく痕跡探しに変更しましたが 僕には見つけることができませんでしたぁ〜(>_<)
    今年は双眼鏡買います(o^-‘)b

    あっ! 宮崎学さんのもう一つのブログ(gakuの今日のひとこま) 2007 5月21日の記事の夢風船を読みました。 鳥肌が立ちました!
    ほんと悪夢になりました

    Comment by 下別府勇次 — 2011/6/11 土曜日 @ 8:46:41

  9. ■下別府勇次 さん
    栗田半島では、いい体験(野糞)もしましたね。
    あの辺の熊は、クマ棚をつくらないタイプだと思いますので丁寧な現地観察が必要かと思われます。
    夏までには、いちど出かけたいところです。

    双眼鏡は、ぜひ必要ですよ。
    7~10倍で、少し高くても頑丈なものがいいでしょう。

    「夢ふうせん」は、まさにその通りになります。
    いや、もうなりましたが。

    Comment by gaku — 2011/6/15 水曜日 @ 8:03:13

  10. 初めて投稿します。
    山形県の内陸部奥羽山系のふもとに住んでいます。
    年はgakuさんと同じです。

    狩猟者が激減してツキノワグマが里の人家近くに出現するようになったので、やめていた狩猟者登録を3年ほど前に復活しました。
    シーズンには熊を探して山に入る猟師になりますが最近はいつも逃げられています。
    ほとんど、里に近づくな、人間は怖いぞと狩猟圧力をかけるためだけの存在です。
    でも、今年5月4日に人家のすぐ傍に来たクマを探していたときに、偶然今年生まれた小熊を二頭連れた母熊に出会い突進されました。
    杉の造林地で子育てをしていた親熊は15メートル先でパニックになっていましたが、すぐに声を上げて向かってきました。
    やむを得ず1メートルの至近距離でライフル銃を発射したので親熊は死にました。
    杉の木には2頭の小熊が並んでしがみついていました。
    とてもそのままにしておけないので二頭をリュックに入れてつれて帰りました。
    県に相談したのですが保護した場所において来いと言うのです。
    ミルクしか飲まない2.5kgと2.8kgの小熊を山においてきたら餓死するのは明白です。
    その小熊がいま家にいます。
    体も2倍以上になって食事時間前には檻から出て庭中を駆け回り、松の木の天辺に巣を作ったカラスに「突かれ」に上っていきます。
    とってもかわいいです。
    最悪の場合来年の春まで面倒見て、放獣しようと考えていますが不安もあります。
    引き取ってくれる動物園とか探しています。

    さて、ツキノワグマは信じられないことをします。
    2年前の春に断崖の中段にあるブナの枝に立っている熊を見つけ大きな仰角で2人で3発発砲しましたが命中しませんでした。
    4発目を発砲しようとしたら木の上方から小熊が降りてきました。
    2人は発砲を中止しました。
    親子は急いでブナの木を滑り降り潅木の中に姿を消しました。
    距離はほとんど命中するはずの150メートルぐらいなので怪我をしている可能性があり確認しにがけを上りました。
    血の跡が無いので無事を願いながらそのままがけを上り途中で小峰に移り休憩しました。
    私はルートを探して上を見ていたけど腰を下ろしていた友人が「おっ」と声を上げました。
    視線を追うとなんと50mほどのところに丸々太った熊が腕にあごを乗せてこちらを見ながら伏せていたのです。
    小熊が5メートルぐらい離れたところにいます。
    目はまっすぐこちらを見ていましたが耳は緊張状態ではありませんでした。
    友人はやっぱり弾は中っていたんだといいます。
    逃げたけどあそこで倒れたと言うことです。
    しかし母熊は、たまにハエなどの虫を追う動作をするし、後にはあくびまでしました。
    それを見て無傷だと確信し、うれしくなりました。
    私たちは普通に会話をしているので熊には聞こえるはずです。
    母熊は威嚇や警戒はまったくしませんでした。
    50mなら熊は数秒でここまでこれます。
    2人はまったく危険を感じなかったのでライフルの薬室がからのまま熊の様子を見ていました。
    やがて体の向きを変え、また伏せました。
    どこにも傷が無いことを見せようとしたのかもしれません。
    そしてしばらくして起き上がり遠ざかって行きました。

    発射仰角が大きいとライフル弾は上方にそれます。
    考慮して発砲したのですが「幸運」にもより上にそれたのだと思っています。

    2人は、母熊が礼をしに来たんだ、怪我をしていない事を知らせに来たんだと思いました。

    これは本当にあったことです。
    いまだに目に浮かびます。
    そんなこともあるのだということを皆さんに知っていただきたくて書きこみました。

    Comment by bbear_mts — 2011/6/22 水曜日 @ 23:12:18

  11. ■bbear_mts さん

    山形の奥羽山系といえば、今年の5月連休に近所におりました。
    もう少し早く連絡がとれていれば、子熊を見ることもできたのですね?
    今回のような事情で飼われている子熊をこちらでも見たことがありますが、人間に慣れてほんとうに可愛いものです。
    しかし、子熊もそのままの大きさでずっといけばいいのですが、どんどん成長し、やがて力も強くなり、人間の手に負えなくなります。

    人間に育てられた熊を1年後に山野に放獣というのも、いろんな意味でちょっと心配です。
    どこかで確実に飼育できるところがあればいいのですが。。

    「母熊の礼」の話しも、あまりにも不思議の多いものですね。
    とにかく、ツキノワグマは奥の深い動物だと思っています。
    写真家として、そろそろツキノワグマは「卒業」したいのですが、この奥の深さを知ってしまうとなかなか卒業も難しそう、です。

    Comment by gaku — 2011/7/1 金曜日 @ 7:39:27

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