なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2007/1/27 土曜日   調査

『2−3年後にツキノワグマは絶滅する?』 その9

フクロウ

そういえば、イヌワシやクマタカの尾羽は弓矢には欠かせない。

だから、戦国時代から江戸時代にかけては、イヌワシやクマタカを殺さずに確実に捕獲する技術が確立されていた。

弓矢は合戦のときには相手方に打ち放ってしまう消耗品なので、その消耗品のためにイヌワシやクマタカをそのつど殺して尾羽を入手していたのではたちまち資源は枯渇してしまう。このようなことをやっていれば各武将の戦力にも響いてくるので、地域豪族は猛禽類の生態学に精通していなければならなかったのである。

このため、捕獲した個体からは必要な尾羽だけをいただいて、あとの生活には支障をきたさないようにするためにも、捕獲時期がどこにあるかまで知り尽くして厳格に資源管理をしていたことがうかがえる。

しかも、その裏には、豪雪地帯や雪のない地域、北日本、南日本など、それぞれの気候風土に見合った捕獲方法が確立されていたことも付け加えておこう。これらの捕獲技術は当時としては「一級軍事機密」でもあったから、書面に残さずに口伝で伝えられていて、ワシタカを捕まえられる腕のいい家系は代々高級軍事官僚として優待されていたハズである。

さらにこれは「噂」ということで聞いておいてもらえばストレスも少なくてすむことだが、こんなこともあるらしい。

オオタカはレッドデータブックでは絶滅危惧種になっているが、平成時代の今日では異常繁殖といえるくらいに個体数が増えている。

ボクは写真集『鷲と鷹』を1981年に出版しているが、そのころすでにオオタカが増加傾向にあることを指摘している。そして、年代を追って東海、近畿、中国地方へと順次移っていくとまで断言した。その指摘は、各地でオオタカを観察してきた人たちには、ここ20数年間でどのような変化があったかを振り返ってもらえば理解してもらえるだろう。

こうしたなかで、増えたオオタカがある地域ではレース鳩を捕食するようになった。

そして、訓練鳩舎にいけば獲物が手にはいると学習したオオタカが、鳩舎をマークして居座りつづけたのである。

鳩レースの世界は、競馬と同じように血統がモノをいう。このため、1羽何十万円という鳩も少なくなく、それらの鳩をオオタカが無差別に襲う。

たまりかねたハンドラーは、オオタカ捕獲作戦にでた。

オオタカの習性を研究して、ある捕獲技術を編み出したのである。

その結果、一年間に最高60羽のオオタカを捕殺したということだった。

オオタカは捕獲しても次々に補充されてきて、捕まるのだった。

60羽が最高だったというが、年間30〜40羽の捕獲はコンスタントに続いたという。

オオタカがこのように捕獲される背景にはそれだけ「予備軍」がいるということでもあり、実際にはすごい個体数が生息しているという裏づけでもある。

「噂」でこうした捕獲と技術をボクは知ったのだが、オオタカの習性がわかっているだけに、これは見事に観察しぬいた結果であることにも合点がいった。

ここで誤解をしてもらっても困るが、ボクは野生動物たちを実際に捕まえているわけではない。そして、積極的に捕獲を奨励したり手助けをしているのでもない。

それより、このような知恵をつかった技術確立をしてくる人間に興味があるからである。たった一人で、野鳥や動物のことを知ろうと理解と努力を重ね、捕獲を考え出していく人間としての自然観察者に見習うべきところがあるからだ。それは、ボク自身にも新たな自然観を育てさせてくれることにもつながるし、自然界を深く見なければならないことを教えてくれる参考にするべき能力を備えた人間像でもあると思っている。

「無人自動撮影」という技術は、海でいえば「定置網」や「刺し網」「はえ縄」であったり「カニ篭」だったりする。カメラを目的の獲物に合わせそのうえで技術をつかえば、獲物の生命は獲らないが素顔を撮らせてもらえるからである。

そのためには、あらゆる自然界の仕組みを理解し、そこに生息する動物たちの生態を熟知して、カメラ技術を鍛える必要がある。そして、それを極めていくほどに自然界の奥深さを知ることができ、こうした知識は現代社会にも必要なことだとボクは思う。だから、現代社会では「オービス」や「Nシステム」、街角の監視カメラなどが、社会秩序の発見や問題究明に大活躍しているのと同じように、ツキノワグマをはじめとする野生動物の動向などはこうした無人撮影でかなりの部分がみえてくるということだ。

ここで言いたいことは、

ツキノワグマが「ドラムカン檻」に簡単に入って捕獲されてしまうという事実であろう。それは、ドブネズミがネズミ篭に入るのと同じ、だからである。ツキノワグマだからといって、何も難しく考えることはないのである。

だから、こうした習性などを理解したうえで技術をちょっとだけ工夫すれば、この動物に対しては相当な調査が可能なのである。

そうした可能性があるのに、「絶滅する」「希少動物」なのだといい続けているだけで何もしないことのほうが、ボクには罪深く感じてならない。

1億2000万人も住む今日のこの現代社会の日本なのだから、自然を語るのに全国一律の同じ発想だけの意見ではなく、それぞれの地域に見合った別な視点が必要なのだ。これは、「啓蒙」ではなく「啓発」の時代にとっくにきていると思っているから、ボクもこうして発信しつづけているのである。

写真:夜行性のフクロウだって、きちんと観察すれば無人自動撮影で「寸止め」も簡単にできてしまう。

(from/ gaku )

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3 件のコメント »

  1. 昨年12月に発表された環境省の新しいレッドリストで
    オオタカは、絶滅危惧2類から準絶滅危惧
    に格上げされてます。

    http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7849

    表1と7をごらんください。

    ところで、オオタカの捕獲とういうのは
    有害鳥駆除(の許可を受けた捕獲)なのかしら
    それとも、密猟?

    コメント by 石田健 — 2007/1/27 土曜日 @ 17:54:55

  2. ブッシュマン(この呼び名は白人が付けた差別語なので、コイ・サン族というのが現在の正式名称だそうですが)について書かれた本の中で、「野生動物の習性を誰よりも熟知し、理解しているのは狩猟民族だ」という言葉を読んで思わずうなづいたことがあります。生活のためはもちろん、何らかの必要性があって動物を捕獲しなければならない人々ほど、相手のことを真剣に観察し、調べる人々はいないでしょう。

    保護派からは嫌われることが多い捕獲派の人々ですが、学ぶべき点は多いのではないでしょうか。

    コメント by 半阿弥 — 2007/1/28 日曜日 @ 0:17:44

  3. > 格上げされてます。

    VU→NTへの「格下げ」ですね。

    マイフィールドでも、ここ数年で目撃数が増加しています。

    ※編集でコメント追加です
    健全度が「格上げ」されて、絶滅危惧度が「格下げ」になったのですね。日本語は難しい。

    コメント by たじまもり — 2007/1/30 火曜日 @ 18:01:43

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