なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2007/1/25 木曜日   調査

『2−3年後にツキノワグマは絶滅する?』 その8

リス4枚

「猪垣」をつくって獣害に苦しんでいた江戸時代中期ころは、日本の人口は3,200万人ほどだった。平成時代の今日と較べたら、実に四分の1だった。それなのに、耕地面積などは、現在とほとんど変わっていない。山地も、樹種はともかく地形などは現在とまったく同じである。

こうしたなかで、地域住民は「落とし穴」や「石罠=押し」、「据え槍」などで積極的にクマやイノシシを捕まえてきていた。これらの仕掛けを想像するとあまりにも原始的なので、捕獲効率が悪かったのではないかと素人は考えてしまう。

しかし、地域の自然環境と動物を熟知していれば、このような原始的な仕掛けでも獲物は簡単に捕獲できたのである。

「据え槍」は、アイヌの「仕掛け弓」とまったく原理は一緒であり、のちにこれは明治時代になってからは「据え銃」に変化していった。

どれも捕獲効率がいいことと、人間に対して極めて危険なことから、これらの猟法は現在ではすべて禁止されていることは、先にも述べた。

昔はこのような仕掛けで実際に野生動物を捕獲していたことを知ったとき、当初のボクもにわかに信じられない気持ちだった。だが、自動撮影技術を極めていくと、これらの猟法を信じられるようになり、研究するに値するものだと知った。

実際には、10年前に中央アルプス山麓にあったコンクリート水路の廃砂枡にツキノワグマが落ちて助けられたことがある。その廃砂枡は、2m四方で深さも2mだった。たったこれだけの穴なのに、ツキノワグマが落ちれば自力で這い上がることができないのである。こうした事実を知り、「落とし穴」の確率性を改めて認識したし、野生動物の盲点も知った。

だから、「据え槍」や「仕掛け弓」だって、腕のいい猟師なら誤差5cm以内という正確さで獲物を射ることができる。しかも、小さな獲物は外し、ある大きさのものだけを狙い撃ちにすることだって可能なのである。

注意札

こうした知恵と技術が、今日の人口より四分の一も少ない時代に、各地で確立されていたということにむしろボクは興味がある。

それは裏を返せば、それだけ自然と対話してその地域にあった独自な捕獲方法を編みだしていたことがうかがえるからだ。平成時代の今日のように通信網やマスコミも発達していなかった時代に、こうした技術があったことは、それだけ足元の「自然観察」をして答えをだしていたからである。

その意味でも、ツキノワグマだって南北に長い日本列島のこと、それぞれの地域に見合った観察アプローチがあっていいのだ。そのためには、このような狩猟の技術こそ参考にしなければならないからである。

写真上:敏捷でスピードのあるリスは1/100秒のタイミングでシャッターを合わせなければならないが、無人自動撮影でも行動などを熟知すればそれも可能となる。このように、「寸止め」の技術で同じようなカットの量産もできてしまう。ツキノワグマは体も大きくて鈍重だから、リスとは比べものにならないくらい自動撮影はラクなのである。

写真下:現在でも山中にこのような注意札を見ることができる。昔の罠にも、こうした配慮がなされていたにちがいない。

(from/ gaku )

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