なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/3/9 水曜日   ツキノワグマ日記

山容をみてツキノワグマを探る

つい先日、長野県の「JA婦人部」というところで講演をしてきた。
ツキノワグマをはじめとする獣害についての講演依頼だった。
JAといえば、農協さん。
したがって、すべてが農家の嫁さんたちということになる。
こういう婦人たちのほうが、意外と熱心に自然界のことを理解してくれるだろうと思ったからオイラは講演を引き受けたのである。

ツキノワグマ、イノシシ、ニホンジカ、サル…
日本を代表するこれら4大動物は、確実に増えてきていることの説明をまずした。
増えてきているから農業被害も起きるのであって、ここ数十年間でこれら野生動物たちが確実に身近に迫ってきていることを農家の婦人部の皆さんも実感していた。
だから、熱心に耳を傾けてくれた。

では、どうして増えてきたのかといった理由をたくさんのスライドを使って説明もした。

1)スパイクタイヤが使用禁止となって30年。冬期間の融雪剤である「塩化カルシウム」が全国的に大量に散布されており、これらの化学塩が野生動物のサプリメントとなって力づけた。

2)化学肥料や農薬なども、間接的に微量摂取をすることによって病気にもなりにくく野生動物たちを元気づけた。

3)畜産や養鶏、養魚現場での大量に使う抗生物質なども、野生動物には間接的に体内に摂取されていくから、これも健康管理に一役買ってきた。

4)加えて、牛などの家畜の糞尿をつかった堆肥には塩分やミネラル分も豊富で、シカたちが大挙して連日連夜舐めにきている写真もみせた。

5)林業や農業現場は、あらゆる面で直接、間接をとわず「餌づけ」となっているから、人間社会が巨大な餌場を提供してきたからである。

6)とくに、林業現場では戦後の国策で行なわれた大規模伐採と植林が50年間放置されてきたから、森を立体的に使えるクマは巨大な餌場を得て今日にいたっている。

7)現代人は、自分たちがやってきた「負」の部分をマイナス面でしか捉えられないが、プラス面のあることに気づくべきなのである。

8)だから、動物たちを一面的で見るのではなく、内臓や免疫など、いろんな角度から複眼的にとらえていくことも必要なのだ。

このような説明をしながら、関連するスライドを見せ、さらには会場からでもみえる周辺の山々を指差して。

「あそこに見える山にはどんな木が生えているだろうか?
いまは冬なので葉が落ちてしまって樹木はハダカになっているから、針葉樹と広葉樹の区別は簡単につくではないか。
しかも、山並みに褐色になっている部分はほとんどが「ドングリ」系統の樹木である。
その樹木は何の木なのか、樹齢はどのくらいなのか、密度はどうなっているのか…
あそこに見えるのは、すべて「クヌギ」。
それより上の標高の高いところは「ミズナラ」。
ちょっと植物に関心をもって、日ごろから目を鍛えておれば、遠景でも一目瞭然でわかることである。
自然界はすべてにおいてサインを出しているのだから、そうしたちょっとしたサインをそれぞれの自宅や職場からでも見つけだすことは可能なのだ。
そうした、ちょっとしたことに気づく視点とセンスをもって日々暮らしている人が、この日本に何人いるだろうか…?
オイラはいつも、そうした視線で自然界を見ている。
飛行機に乗っても、日本の密度濃い山容のどでかさを確かめているし。
広島から青森まで新幹線に乗っても、車窓から遠くの山容までをも見比べて考えている。
さらには、広島から青森まで高速道路に乗っても、双眼鏡と望遠鏡で周辺の山容を見て、樹種を確認し、年齢を探り、樹木の密度を知ることにしている。
こうしてみていけば、あとは無人撮影ロボットカメラから確実に得られてくるツキノワグマをはじめとする日本の野生動物たちの動きを知っているから、経験的にそこの山容に暮らす動物相までをも透視することができるからである。
こうした経験則でいまある全国の自然環境をみれば、マイナス要素などはひとつもなくすべてが上り調子にある。
だから、獣害は、今後は減ることはなくてもどんどん増えていくことだろう。
そして、素人には手に負えなくなるであろう。
それは、学者や行政がまったくスキルを持ってないから、現場での的確な判断はできない。
ましてや、ツキノワグマが絶滅するほどに数が少ないといっているような学者や専門家や愛護派は、無人撮影ロボットカメラのスキルもなければ身銭も切らないので、すっかり本当のところのデータがつかめないでいる。
ツキノワグマが確実に増えてきていることは、獣害に直接遭っている農家のほうがはるかに正確に分かっていることだろう、に。」

とまあ、このような話をしながらさらにはどう対処するべきかを説明してきたのだが、さすがに農家の婦人部だけあって真剣そのもので聞いてくれた。
大会議室には200名余の人たちで満員だったが、あとで県会議員やら市会議員さんが今後もいろいろ教えて欲しいと名刺をもってこられた。
オイラは写真家として現場を見てナンボなので、決定的な写真を何枚も見せられれば、議員さんだってクマがべらぼうに増えていることには気づいたであろう。

ということで、講演のあと高速道路を走っていたら写真のような風景が視界に飛び込んできた。
ドングリばかりの山容と、その裾にひろがる異様な人間どもの館群。
思わずPAに車をいれて、撮影をしてきた。
まさに、何千、何万人の人間が一箇所に寄り集まっていても、自然を「見る」視点がなければただの烏合の衆である。
その背後の山容では、ツキノワグマたちが下界の無関心な人間たちをあざ笑うかのように、ドングリ林を毎年闊歩していることであろう。
このような山野に「クマクール」と「マタミール」を置いて、無人撮影を何年間もしつづければ、黙っていたってツキノワグマの密度がわかる。

この写真は、まさに現代人を皮肉ったものすごくおもしろいカットだと思う。
真剣にオイラの話しに耳を傾けてくれたJA婦人部のみなさんが撮らしてくれたカットだ。

写真:
1)こんだけ遠景でも、ドングリ群の樹齢は30年にはなっている。
2)見事なこの二極化が、写真家には実に面白く感じてならない。
3)肉眼ではとうてい見ることのできないところに、クマ棚が鳥肌が立つほどどっさり。

(from/ gaku )

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3 Comments

  1. 四国に住んでいるクマ好き人間ですが、休みにはたまに家の近くの
    里山を歩く程度です。それでいつも思うのですが四国の高い山には
    石槌山系などに見事なブナの原生林が残っています。しかし
    残念ながらクマは剣山系にほんの少ししかいないということが
    定説になっています。それ以外の山系でもたまに目撃したという
    話はよく聞きます。実際のところ四国全体ではどうなんだろうか
    ということがサッパリわかりません。剣山系以外にもいるような
    気がしてなりません。

    Comment by ロータス — 2011/4/24 日曜日 @ 7:29:49

  2. ■ロータスさん

    >それ以外の山系でもたまに目撃したという話はよく聞きます。

    そこまで情報があれば、あとは探索するというスキルアップですね。

    動物好きとか自然好きといわれている人は多いですが、ある特定の動物にしか興味のないひとばかりのことが多いものです。
    ツキノワグマでも、タヌキやキツネの行動や心理状態まで確実に追跡できるスキルがあれば他のどの動物にも当てはめることはできます。
    なので、どの地域に住まわれていてもまずは自宅の庭先にどんな動物が人知れずやってきているのかを「知る」ことと、それを確実に遂行できるだけのスキルを身につけることだと思います。
    四国では、野良猫、ハクビシン、アナグマ、タヌキ…
    かなりの市街地や郊外の人家にも確実にやってきているハズです。
    それを探るには、センサー技術、監視する技術…etc
    いろいろなスキルが要求されてくると思います。
    これらが完璧にできるようになれば、ツキノワグマも探索できるようになります。

    Comment by gaku — 2011/4/26 火曜日 @ 10:07:31

  3. 有難うございます。後は自分でもっと勉強してスキルを身につけて
    痕跡探しに挑戦してみたいと思います。

    Comment by ロータス — 2011/4/26 火曜日 @ 20:01:30

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