なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2010/9/26 日曜日   ツキノワグマ日記

日本犬はツキノワグマ撃退にきわめて有効

知り合いの農家から電話がきた。
「ウチのお墓のお供えものを盗んでいくものがいるけれど、何なのか調べられないものだろうか?」
先祖様に食べてもらおうと、初物のリンゴやナシをお墓に届けておけば、一夜にしてなくなってしまうのだそうな。

さっそく、カメラを設置してみると、大きなツキノワグマが撮影された。
それも、1週間ほどでまちがいなく3頭のツキノワグマがやってきていたのだった。
お墓から農家の自宅までは、120mの距離。
ツキノワグマたちは、早ければ夜の7時ころには出没していた。
8時、10時、12時、朝の4時…と、いろんな時間帯にやってきていたのである。

農家には、ミニチュアダックスとヨークシャーテリア、それに、メスの柴犬とオスの日本犬系雑種の4頭が飼われていた。
実は、これらの犬たちが、ツキノワグマなど野生動物の徘徊を啼いて教えてくれるのだという。
無人撮影装置の時間データを農家に知らせる前に、昨夜は「8時ころと12時ころ、でしょう?」とオイラに教えてくれる。
その時間帯が、カメラデータとぴたりと一致するのである。

MダックスとYテリアがタッグを組んで啼くときは、タヌキかキツネ。
柴犬と雑種が猛烈に啼くときは、イノシシとツキノワグマ。
そして、柴犬が啼きながら藪に突っ込んでいけば、それはイノシシ。
ツキノワグマの場合には、啼いているだけで絶対に藪には突っ込んでいかないそうだ。
農家では、これらの犬を、夜間にはリードを解いて放し飼いにしている。

ツキノワグマをはじめ野生動物は、なんらかの形で超音波を発信させているとオイラはずっと言いつづけてきている。
その超音波を日本犬は敏感に聞き取れる能力があると、これまたオイラは思っている。
現実に、オイラも天然記念物柴犬保存会の犬を何頭も30年間にわたって飼育してきているから、これらの能力を持ち合わせていることは充分に承知している。

天然記念物柴犬保存会の犬は「縄文犬」とも呼ばれ、縄文時代の遺跡からいくつもの小型日本犬の骨格が出土している。
これらの骨格とほぼ一致するのが天然記念物柴犬保存会の柴犬なのである。
縄文時代にはすでに日本犬の祖となる犬たちが縄文人とパートナーを組み、狩猟に協力したり、集落を野生動物たちから守ってきていたので、傷ついた犬が縄文人と一緒に丁寧に葬られていたという報告もある。

あの時代から日本犬がいたのだから、全国各地の中山間地にはそれぞれの地形や風土に合わせて地域に適した日本犬が進化して今日まで発展してきたことがうかがえる。
四国では「四国犬」、三重・和歌山には「紀州犬」、山陰地方には「山陰柴犬」、美濃地方には「美濃柴犬」、信州には「信州柴犬」、山梨では「甲斐犬」、東北には「高安犬」、北海道には「北海道犬」。

こうして日本犬は長い歴史のなかで日本の気候風土を生き抜いてきたから、それぞれの地で野生動物と対処するなかで本能的にそれぞれの動物たちの出す超音波をDNAのなかにしみこませている、からである。
その証拠に、自分が飼育している柴犬を山野に連れていっても、絶えず耳目を使って周囲の環境観察に余念がないからよくわかる。
外国には、外国犬のそれなりの良さがあるのかもしれないが、その犬種が育ってきた気候風土にもっとも適した歴史があるので、日本の野生動物に対しては日本犬がいちばんそのような能力を備えているとオイラは信じている。

柴犬のように小型な犬でも、数頭あつまればツキノワグマを殺すことはできなくても集落に入り込ませないような防衛はできる。
だから、つい50年前までは、全国の中山間地集落では犬の放し飼いが普通に行われていた。
それぞれの自宅で飼われていた犬たちにも、集落内では犬社会を築いていたから、クマが出てきたりして危急存亡となれば啼いて教える。
その声を聞いて、集落全体の犬たちが応援にかけつけるといった風景が、つい50年前までは全国のいたるところにあったハズ、である。

現在では犬の放し飼いは法律で禁止されているが、人間を咬むような犬は昔から淘汰されて、従順な犬だけを選んできた歴史もあった。
そして、そこに暮らす人間も犬との接し方をちゃんと知っていたから事故そのものが少なかったハズである。
それが、放し飼い禁止になったころからは外国からのいろんな犬種が日本にも入り込んでいたから、ミックス化が進み質の悪い犬も増えて、咬傷事故にもつながっていったからである。

日本犬の能力のすばらしさを関西のある都市で行われた獣害問題講演会で、オイラは話したことがある。
そうしたら、質疑応答のときに「犬の放し飼いは禁止されているのに、何てことを言うのだ」というお叱りを受けたことがあった。
まあ、そういうレベルなら仕方がないが、すでに長野県では犬放し飼い特区を設ける自治体もあるくらいだから、日本犬の見直し運動もはじまっている。
人間の意識には時差もあるから、このような話題も50年くらい時間がかからないと認識されていかないのかも知れない。

写真上から:
1)お墓にやってきたツキノワグマのこの鋭い目つきを見よ。
2)この犬たちがセットで啼くときはタヌキかキツネのときが多く、クマがやってくれば静かに黙ってしまうという。
3)柴犬(左写真)は軽トラックの運転席が大好きで、いつもこの中から耳目をそばだてている。右写真の繋がれている雑種犬は、かなり年寄りだが、クマのときにはしっかり啼くのだそうだ。
4)縄文柴犬は、目が三角で吻も長く歯も大きくてしっかりしており、額段も浅く、三角のピンと立った耳はあらゆる超音波を聞き、四肢もよく発達していて日本の山野にはとてもよくマッチした犬である。主人にも従順で、言葉を交わさなくても気持ちを理解する洞察力をも秘めているから阿吽の呼吸でつきあえる犬といえる。

(from/ gaku )

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12 Comments

  1. 今回のツキノワグマのショットも凄い!恐れ入ります。

    gaku先生の講演会で、はじめて「集落を護ってきた犬たち」の話を伺ったときは、目から鱗でした。

    >すでに長野県では犬放し飼い特区を設ける自治体

    柔軟に対応している自治体もあるのですね、ちょっと安心しました。中山間地集落では犬の放し飼い・・・爆竹やロケット花火、電気柵より効果絶大だと思います。

    Comment by もっち — 2010/9/27 月曜日 @ 9:10:37

  2. >犬放し飼い特区、、、知りませんでした。

    岡山県辺りと、北関東から青森にかけて、結構放し飼いのいぬを見掛けます。(私の見た限りですが、)

    >犬の放し飼いは法律で禁止されているが、、、
    法律から条例への変更など考えないと、実情に合わない法律はプカプカと浮いているだけになりそうですね、、、

    Comment by 杢爺 — 2010/9/27 月曜日 @ 17:18:20

  3. 雑種も含めた日本犬のDNAには、クマだけでなくイノシシ・シカ・サルなどが焼き付けられているので、日本の獣害には日本犬で対処するのが一番だと思いますね

    Comment by 風 — 2010/9/27 月曜日 @ 23:35:17

  4. 熊よけの犬の放し飼いは、鶏を追っかけたり、人間に噛み付かないように訓練された犬を放していると聞きました。自治体と協力しているようです。今、日本中の山間地で、イノシシ、猿、熊などの被害が増えているのだから熊だけが減っているなんて馬鹿げたことを云わないで、各自治体も考え方を変えなければ行けないでしょうね。岡山だったか広島の保護団体は熊が減っていると云って、ブナや椎の実をまいていると聞いたことがあります。これなどは生物のDNAが混ざってしまい大変危険な行為だと思いますが・・・・。

    Comment by ユタ — 2010/9/28 火曜日 @ 10:14:53

  5. ウチの雑種イヌも、経験から
    生きてるカモとクジャクには異常なほど反応しますが
    他の鳥や死んだ鳥には、見向きもしません。生肉も食いません。
    森の中でゴイサギとニアミスした事もありましたが
    その際も、一瞥しただけでしたので
    間違いなく何かを感じているようです。
    ゴイサギは驚きすぎて、固まっていました。
    私の予想では、呼吸音か心拍音ではないかと想像しています。
    最近ではサルにも興味を持ち始めたようです。

    Comment by 0ポ — 2010/9/28 火曜日 @ 22:57:31

  6. 我が家の芝テリアmixはサル追い犬として、長年活躍してきました。
    様々な小動物、イノシシにも反応しますが、鹿は来ても吠えません。
    ヤギの仲間と思って、家族という位置づけなのか?と推理していますが…

    Comment by あーる — 2010/9/28 火曜日 @ 23:44:23

  7. ベアドッグって最近 よく聞くのですが、わざわざ 外国と犬種まで同じようにしなくても日本の風土に合った日本犬を地域ぐるみで放し飼い状態にすれば それだけでも熊避けになるのですね。熊の超音波 本格的な調査をすれば 熊が寄ってこなくなる超音波も見つかるかもしれませんね。

    Comment by しらとり — 2010/9/29 水曜日 @ 17:27:43

  8. ■もっち さん
    >今回のツキノワグマのショットも凄い!恐れ入ります。

    もう少し、別カットも撮れているので、そのうちにどこかで。

    ■杢爺 さん
    やっぱり、「条例」は要るかも知れませんね。

    ■風 さん
    日本犬は、見直したほうがいいですね。
    すばらしい、犬だと思います。

    ■ユタ さん
    >今、日本中の山間地で、イノシシ、猿、熊などの被害が増えているのだから熊だけが減っているなんて馬鹿げたことを云わないで、各自治体も考え方を変えなければ行けないでしょうね。

    日本の自然科学の研究者がとにかく発想力が悪くてダメだと思います。
    まったく現実を知らない人ばかり、なので。

    >岡山だったか広島の保護団体は熊が減っていると云って、ブナや椎の実をまいていると聞いたことがあります。

    この団体は、すでに「カルト教団」になっていますので、調べてみると笑えます、よ。

    ■0ポ さん
    >私の予想では、呼吸音か心拍音ではないかと想像しています。

    たぶん、呼吸音だとボクも見ていますが。

    ■あーる さん
    犬にも、いろんなところに反応する特異性があると思います。
    加えて、個性もあると思いますので、個々の特性を引き出してあげることが大切ではないかと思います。

    ■しらとり さん
    >ベアドッグって最近 よく聞くのですが、わざわざ 外国と犬種まで同じようにしなくても…

    まずはパクリから入るので、けっこうこういったところが笑えます。

    >熊の超音波 本格的な調査をすれば 熊が寄ってこなくなる超音波も見つかるかもしれませんね。

    絶対に見つかると思います。
    山野に集音機のようなものを向けてスイッチを入れておけば、熊が近づいてきたら「ピピピピピ…」と鳴って教えてくれる、とか?
    そんな機械ができれば、最高に楽しいんですが。。。

    Comment by gaku — 2010/9/30 木曜日 @ 15:14:56

  9. 日本で馴染みの、警察犬訓練士ではなくって、
    アメリカみたいに犬と人間の生活をより良くしてくれる
    犬の動物行動・心理学者が増えれば、
    こういう農村で、もっと犬が幸せに人間と共存出来るように
    なりますよね~。ここら辺も新しい領域なので、マダマダ日本は、学問として追いついていないです。

    日本犬は気性が荒い(勿論、熊を追い払うような仕事をしてきた
    犬なので当たり前なのですが。)とか、そういう理由で、最近は(愛玩犬として購入すると、どう日本を躾れば良いか分からず)手放す(そして、保健所で殺処分)ようなことが多いですよね。そこを犬に仕事を与えて生き甲斐を作り、家では家族に忠誠な犬と可愛がっていただけるよう、人間と犬の架け橋出来る人が増えてほしいと願うばかりです。

    Comment by Daniel Mama — 2010/10/15 金曜日 @ 21:46:39

  10. こんばんは。
    8月に3回、クマと接近遭遇いたしました、かめです。

    日本犬のDNAの記事、非常に興味深いです。

    そして、もっと日本犬のことを知りたいと、図書館で写真集を借りたら、これがえらく古い写真ばかりでびっくりしました。
    「往古日本犬写真集」というのでしたが、明治・大正・昭和初期の白黒の写真です。
    この犬たちの面構えが素晴らしいです。今の犬たちと全然違います。
    たくましいと言うか、ふてぶてしいと言うか、荒々しいと言うか・・・。
    これなら確かに、クマにも立ち向かえるでしょう。

    そして、もうひとつ驚いたのは、日本犬の秋田とか甲斐とかの犬種って、最近固定されたのですね?この写真集に、固定されていく様子が載っていました。それまでは、とにかく“犬”という感じで・・・。

    クマを撃退した家の雑種犬は、日本犬というには“ぬらり”とした感じで、
    日本犬のDNAってあるのかな~と危ぶんでいたのですが、
    固定される前の犬たちの中には、いました、いました。
    ちょっと東南アジアやオセアニアな感じの犬たちが・・・。
    きっとこちらから、DNAを受け継いでいるのでしょう。

    ところで、うちの近所に“縄文シバ”と言われているワンちゃんがいます。現在の一般的な柴犬とはかなり違う外見で、小柄で、体も顔も非常に細く、とがっています。
    「本当にシバ?」と思っていましたが、gaku先生の柴犬と同じ種類でしょうか?
    古いタイプの・・・というか、これが本物のシバなのですね?

    そのワンちゃんも、家の犬も、彼が持っているもの(他人のおもちゃや、汚い拾い物)を取り上げようとすると、牙を剥いてくることがあるのです。
    お互いに、「こういう犬は、ペットじゃないんだねえ。」と話し合いましたが、まさに、そうなのですね。
    こちらは首都圏でクマ撃退の仕事もないし、公園に散歩に行っても、この子達には窮屈なようです。
    山の中で野生動物を追いかけている方が、幸せなのかもしれません。

    このところ連日、クマの事故のニュースを聞きますが、本当に「どんぐりが少ない」というコメントばかりですね。以前だったら鵜呑みにしていたでしょうが、gaku先生の本を読んだ後では、「偉い人たちがそれでいいのか?」と不安になります。

    すみません。長々とお邪魔いたしました。日本犬の記事で、つい、嬉しくなってしまったもので・・・。
    失礼いたします。

    Comment by かめ — 2010/10/17 日曜日 @ 23:52:52

  11. ■Daniel Mama さん
    日本犬は、確かに自分のスタイルをもってます。
    とくに、雄犬は主人意外の言うことを聞かないこともありますが、そこが武士道に通じていいところでもあります。
    人間自身が近年は軟弱になってきていますから、農地をもって自然と闘っているような人にはやはりオススメだと思いますが、自然のないところでの居住者には向かないかも知れませんね。

    ■かめ さん
    わざわざ図書館で日本犬の勉強までされて、理解してくださってありがとうございます。

    “縄文シバ”は、まさにボクの飼っている柴犬と同じです。
    ウチのは、「黒柴」ですが、「赤ゴマ」という毛色のものはまさにオオカミそっくりで格好いいですよ。
    この「縄文シバ」の顔貌やスタイルは、そのまま東南アジアにまでつながっていきますから、ルーツも分かりやすいです。
    いずれにしても、主人や家族には従順でこちらの気持ちを理解しようとする洞察力は抜群ですから、愛情を込めればその分だけ返してくるところが柴犬のいいところでもあります。
    たぶん、縄文時代にも、このようにして人と共に生きていたんだと思います。
    ボクは、あと2~3匹縄文シバを飼いたいところなんですが…

    Comment by gaku — 2010/10/18 月曜日 @ 22:49:57

  12. […] を選んできた歴史もあった。 そして、そこに暮らす人間も犬との接し方をちゃんと知っていたから事故そのものが少なかったハズである。 (日本犬はツキノワグマ撃退にきわめて有効) […]

    ピンバック by ツキノワグマを巡る論争 « 森の虎じろう — 2010/11/4 木曜日 @ 19:33:45

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