なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2010/4/20 火曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマはイワナを食べる…か?

ここは、長野県にあるニジマスの養魚場。
そこに、ツキノワグマが夜になると出没してきてマスを捕らえていく。
まさかと思うが、ツキノワグマは夜間でも水中の魚の動きが実によく見えているらしく、確実に狙いを定めて瞬間的に手を入れ爪でマスを引っかけていくのだ。
体重のあるツキノワグマが池のほとりを歩いても、ニジマスたちはその接近にはほとんど気づかない。
足裏の肉球でツキノワグマは音も振動も見事に消し去り、気配を殺して、行動しているからである。
ツキノワグマは、生きたマスだけでなく、死んだり、弱ったりして流路スクリーンにひっかかったものまで積極的に捕食もしていた。
このようなツキノワグマの捕食行動を、ツキノワグマはドングリしか食べないと思っている人には想像もつかないことだろう。
だが、これは、まぎれもない事実、なのである。
北海道のヒグマがサケやマスを食べることは有名だが、本州のツキノワグマにも魚を食べる習性が備わっていることを忘れてはならない。

この養魚場では、あまりにも被害があるものだから電気柵を設置した。
だが、ツキノワグマは難なく突破してニジマスを盗んでいくのだった。
こうして、養魚場にツキノワグマがやってきて食害を出すと、ここで魚を飼育すること自体が「餌づけ」をしているから問題なのだと言う人もいる。
しかし、人口増となった現代社会で、魚類供給も天然ものに依存はできないのだから、このような内水面養殖だって必要なことである。
そうした人間活動の場に、野生のツキノワグマがやってくることに、その心理をさぐる面白さと必要性があるとボクは思っている。
以前、別のところにあったコイの養殖現場にもツキノワグマが現れ被害にあったし、近年でも観賞用に飼っていたニシキゴイがツキノワグマに夜な夜な盗まれる例もあった。
なので、こうした事例から、ツキノワグマの食事メニューに魚類も完全に組み込まれていることをここで認識しておいたほうがいいだろう。

そして、ここまで観察を積み上げていくと、自然界でのツキノワグマは、渓流などに棲むイワナやヤマメをかなり捕食していてもおかしくない、と考えていい。
渓流に棲む敏捷なイワナをツキノワグマが捕まえられるハズがないと決めつけてしまうのは、早計である。
どんな魚でも、24時間泳ぎづめでいることはなく、彼らにも必ず休む時間帯があるからだ。
そんな魚たちを深夜に観察してみれば、かなり大物のイワナやヤマメが驚くほどの浅瀬にやってきて休んでいることがよくある。
もちろん、そんな魚を狙って、タヌキが毎晩水辺を徘徊している事実もあるのだから、ツキノワグマだって山中の渓流で人知れず惰眠中の魚を捕まえているものもいるだろう、と考えている。
ツキノワグマもタヌキとおなじように足音を消して水辺を歩くことができるし、養魚場の観察でもわかるように夜間の水中をも確実に透視することができるからだ。

こうして、いろんな角度からツキノワグマのことを知っていくと、渓流のほとりにも無人撮影ロボットカメラを設置して裏づけをとる必要性がでてきた。
自然界をファッション化しただけのコメントをしているようなアウトドアー雑誌などでは、イワナやヤマメはときには幻の魚のようにしてしまってベールに包み込みがちだが、ちょっと注意して観察すれば、山中の渓にはどこにでも生息しているのが本来の姿である。
また、こうした環境が過疎化や集落消滅などで不在地主も増えて、現代社会に思いのほか復活してきていることも事実なのだ。
そうして魚影の濃い渓のいくつかを知っているから、今年はそんなところへもカメラの準備をしてみよう。
「黙して語らない自然界」なのだから、ツキノワグマにしても分からないことはやはりこちらから積極的に動いていき、見て知り確認をして、それをもとにしながら自然界に新たなる「想像力」をかきたてる努力をしなければ何もはじまらないとボクは思っているからだ。

写真:
1)マスをくわえた若いツキノワグマ。このあと、このマスを樹上に隠すという「貯食」行動にでたのには驚いた。
2)水中に手を突っ込む若いツキノワグマ。このときは、ストロボ光もあり捕食に失敗して山中へ退避した。
3)前足のこの鋭い爪なら、イワナだって捕食できる。

(from/ gaku )

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9 Comments

  1. 先日のアイスランドでの火山の噴火で農作物の生育が心配されている中、
    山中での植物も何らかの影響が考えられます。
    その中で今回の試みは面白い結果が出そうな気がします。

    というのは、今朝ラジオでノルウェー産のサーモンの輸入が滞っている聞いたのです。

    そこで、私は北海道のヒグマはサケを食べるけど、ツキノワグマは魚を食べる機会があるのかなと考えた矢先に答えがでてしまいました。

    食生活は親から子へと受け継がれるケースが多いと思うのですが、植物の実りが悪けらば、普段食べる習慣の無いクマが狙って失敗ばかりしてる写真が見れるのかもしれないですね。

    Comment by うどん — 2010/4/20 火曜日 @ 13:32:24

  2. 僕の住む愛知県東郷町から少し車で走ると豊田市の山間部 足助や下山にはマス釣り場がたくさんあります。ニジマスを1キロいくら という感じで釣り場に放流してもらって釣るのですが 当然 放流したニジマスを全て釣り上げるわけではないので川にはニジマスがある程度残るわけですよね。しかも これが毎日繰り返されれば ひょっとしてそこはツキノワグマにとって格好の餌場になってしまいそうですね。だって捕っても捕ってもすぐに次のニジマスが補充されるわけですから。知らず知らずの内にツキノワグマに住みやすい環境を提供してしまって居るのかも知れませんね。

    Comment by しらとり — 2010/4/22 木曜日 @ 12:26:23

  3. ■うどん さん
    こちらでは、旅館で鯉料理を出すところがあり、そのコイを調理場脇の水槽で生かしているのですが、そこから夜な夜な盗んでいくツキノワグマもおりました。
    いろいろなことを複眼発想しなければならない時代となりました。

    ■しらとり さん
    おっしゃるとおり、釣堀とか川へのニジマス放流は「餌づけ」となりうると思います。
    人間中心からみた考えをここでリセットして、自然の側から見る視線が必要なのです。

    Comment by gaku — 2010/4/22 木曜日 @ 18:53:30

  4. 初コメントさせていただきます。いつも拝見させていただいてます。

    自分は岐阜県の飛騨に住んでる者ですが、数年前に近くの軍鶏小屋が熊に襲われたという話を聞きました。自分は、「熊が鶏なんて…」と思って信じてなかったのですが、この写真を見る限りありえるんだと認識しました。

    Comment by 飛騨の山猿 — 2010/4/26 月曜日 @ 10:48:45

  5. ■飛騨の山猿 さん

    ボクは、20年ほど前に山麓部で伝書鳩を30羽ほど飼っていました。
    その小屋を、ある夜にツキノワグマが襲って、バラバラにしていきました。
    熊は、鳩よりも、鳩の餌を狙ってきたみたいでしたが、鳩は1羽もいなくなっていました。
    熊はドングリやブナだけしか食べないと思っているセオリーは、20年前にボクは捨てています。
    やはり、日本の野生動物にはもっともっと柔軟な発想で接していかなければならないからです。

    Comment by gaku — 2010/4/27 火曜日 @ 13:53:47

  6. 初めまして。
    今日このサイトを知り、夢中で読んでしまいました。
    私は単独や仲間で丹沢の沢やヤブ尾根を徘徊して喜んでいます。
    しかし、熊の陰に怯えていることには間違いありません。
    熊を目撃もしています。知り合いの人で2名の方が熊と遭遇して
    格闘され重症を負われています。熊のベッド、糞、立木への爪痕と
    身近に熊を感じています。私は日中の時間しか行動しませんが
    熊との遭遇に備え、ラジオ、鈴などの音を出し、格闘しなければ
    ならなくなった時に備えてのヘルメット、ピッケル、皮手袋などで
    用意をしてはいますが、気休めか?とも思っています。
    これからはいつもサイトを読ませていただきます。
    本もどれかを購入させていただきます。ありがとうございました。

    Comment by M-K — 2010/6/14 月曜日 @ 1:24:00

  7. ■M-K さん
    ツキノワグマは、どこにでもおると思って行動されるのが事故にあわない秘訣です。
    それは、たえず自然環境に気配りできる心境になるからです。

    どこにでもいるのに、ボク自身も不意をついた遭遇がやはり危険なので会わない努力をして山歩きをしています。
    だから、いまだに不意打ちはありません。
    ラジオ、鈴なんて、気休めと思ってください。
    高速道路の轟音だって平気なのですから…

    とにかく、油断をせずに、細心の注意をいつも払うことが、山歩きのポイントです。

    Comment by gaku — 2010/6/15 火曜日 @ 5:48:49

  8. 1年前に東京から滋賀県湖北の中山間地域に来て看護師をしています。こちらの自然がすっかり気に入り東京と湖北を行ったり来たり。
    訪問看護で出合った90歳代のお年寄りに聞くと、嫁に来た頃にはこんなに野生動物が人家近くに来ることはなかった、こんなに来るようになったのは最近のことと言います。
    山の実のなる木を切ってしまって杉ばかり植えたから山に食べ物が無くなって里に下りて来るんだといっていましたが、このブログを読むとそう単純なことでもなさそうですね。

    >とにかく、油断をせずに、細心の注意をいつも払うことが、山歩きのポイントです。

    鳥見をするようになってから、近所の山にも行くようになり、どこの山にも『熊注意!』の看板があります。
    季節や時間帯、近くに餌場があるかどうかなどに注意して歩いたほうがよさそうですね。
    山歩きもむずかしくなりましたね。

    草野川ではニジマスを放流しているし、まーいにちアオサギが朝から晩まで(晩から朝まで?)川の中をじーっと見ているから、もしかしたら夜中に熊も来ているかもしれないなどと思ってしまいました。

    Comment by そらとびねこ — 2010/8/8 日曜日 @ 20:21:23

  9. ■そらとびねこ さん
    いまや、どこにでもツキノワグマは出てきますから、油断は禁物ですよ。
    犬の散歩、ジョギング…、 とにかく、油断している人が多すぎます。
    早朝とか、夕方も要注意ですね。

    Comment by gaku — 2010/8/12 木曜日 @ 23:46:58

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