なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2009/9/30 水曜日   ツキノワグマ日記

高速道路の騒音もまったく警戒しないツキノワグマ

↑ の写真は、中央高速道路の脇にあるクリの木の昼と夜。
道路から、わずかに15mほどしか離れていないところにこのクリの木は生えている。
このクリの木には、7年ほど前から、毎年秋になるとツキノワグマがクリを食べにやってきていることを知っていた。
でも、撮影したくてもツキノワグマがいつ来るかは観察不足もあって毎年空振りに終わっていた。
なんとか、撮影をしたいとは思いつつ、いいアイデアが出てこなかったからだった。

そんな矢先、昨年はクリの木の持ち主から「あのクリの木は宮崎さんにあげるから、自由にしていいよ」と、撮影許可をいただけたので柔軟に発想を練ることができるようになった。
このアングルの目的は、中央高速道路のすざまじい交通量を尻目に、野生のツキノワグマがクリの木に登ってクリを食べて行くその心理状況を撮影したかったからだ。
それには、まさに願ってもないクリの木で、このアングルしかなかったのだった。
ところが、昨年は、ここに1ヶ月間カメラを設置して狙ったにも関わらず、撮影は空振りだった。
そして、今年(2009年)こそはリベンジとばかりに同じように狙った。

しかし、3週間経ってもツキノワグマはクリの木には登らなかった。
ところが、地上には数回にわたってクリの実を拾いにきた痕跡がある。
ならば、もう一台のカメラを地上に設置して張ろうと考えた。
どうせやるなら、高速道路を背景にして、初期の目的でもある騒音が聞こえてくるような写真を撮らなければならないと思った。
その結果は、3日目にして「吉」と出た。
狙いどおり、ツキノワグマがやってきて、落ちているクリを食べていった、からだ。
これは、まさにボクのヨミどおりの結果であり、これぞ「21世紀の自然写真」だと、多いに満足している。

これまでボクは、ツキノワグマはこの30年間で確実に増えてきていると一貫して言い続けてきている。
加えて、世代交代もはげしいし、新世代の新しいクマも誕生しているのだから、人や社会に慣れている「新タイプ」のツキノワグマが出てきていると主張してきた。
それを裏付ける写真がどうしても欲しかったから、ここでのクマの撮影にこだわってきたのだった。

この高速道路は、夜間ともなれば東名高速のバイパスとして大型トラックもひっきりなしに通過している。
その轟音たるやすざまじいもので、カメラ位置に立っていてもボク自身怖いくらいだった。
ときには、風圧まで体に感じることすらある。
そんな環境なのに、現代版ツキノワグマをはじめとするイノシシやシカ、サルやキツネ、タヌキにいたるまでの日本の野生動物は押しなべて、動く車や轟音をまったく警戒もせず恐れをなしていないからである。
こうした平気な心理状態に興味があるし、環境変化に対応する野生動物を語れないようでは、現代の時代に生きる報道写真家としては失格だとボクは思っている。
だから、「人の気配や臭いがあったのでは野生動物は出てこない」とか、人工的なものを一切排除して自然界を賛美するファンタスティックなだけの視点で現代の自然を語ってはいけないと思っていたからだ。

そうした人間本位の考え方だけで野生動物を語るにはあまりにも現代社会の動きとのギャップもはげしく、「野生動物をはじめとする自然は滅びるもの」といった妄想に陥ってしまっているのが現代人である。
だから、今現在の自然や社会を考えるには、古い20世紀の思考で語るのではなく、21世紀の語り部にならなくてはならない。
そこで、ここで改めて申すが、野生動物は私たち人間が想像するほど軟弱ではなく、きわめてしたたかに21世紀の現代を生きているからである。
なので、この写真はまさに「21世紀のネイチャーフォト」である。
こうした写真を理解できないようでは、現代社会と自然界を語る資格もないし、ツキノワグマはカンタンに滅びるようなヤワな動物でもなく、古い視点でモノ言う人こそが滅びに向かっていると思っていいだろう。
だから、この写真を参考にして、もっともっと柔軟な発想で自然界全体を観察する目を養って欲しい、と思う。

写真上:ほんとうは、この木にクマが登ってくれるハズだったが、クマは2年連続して登らなかった。
それは、無理して登らなくてもいいのだという答えを熊がボクに教えてくれたのだった。
写真中上左:昼間はなんの変哲もないどこにでもある高速道路わきの風景。右奥へ通じる側道は、犬の散歩やらジョギングにやってくる人も多い。
写真中上右:首の周りにはヌスビトハギなどひっつき虫をつけているところをみれば、これらの植物分布を考えただけでどの辺を徘徊しているかもわかってしまう。お尻の肉付きを見れば、決して餌不足ではないことをこの熊がその体型から物語ってもくれている(9月26日23時54分)。
写真中下左:4本あるクリの木の下を徘徊したあと、5分後に再び撮影エリアに侵入。
写真中下右:高速道路の草刈りに来た人が、カメラをのぞきにきた。ちなみに昨年の草刈りは9月23日だったから、ほぼ同じ時期に草刈りを道路公団から依頼されているようだ。
写真下:大型熊の前日には小型の別個体が同一地点に出現して、腰を下ろしてのんびりしている。その背景にある高速道路を大型トラックがヘッドライトを輝かせ、轟音をたてて通りすぎていった(9月25日02時07分)。

(from/ gaku )

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8 Comments

  1. うぉ?、凄い写真です。
    1枚1枚の写真からメッセージがビンビンと伝わってきます!

    山の荒廃、餌不足、果ては絶滅寸前・・・偉い学者の皆様のご感想をぜひ、お伺いしたいものです。

    Comment by もっち — 2009/9/30 水曜日 @ 22:00:11

  2. 静かながら、雄弁に語りかけてくる写真です。
    現実を見ようともせず、現実を知らずして、クマを語る人々の、いかに的外れであることか。

    Comment by 小坊主 — 2009/9/30 水曜日 @ 22:46:17

  3. 衝撃的な写真で、まさに「写真は語る」ですね。

    高速道路の脇にクマが出没するなんてけしからん、駆除しなくては・・・!なんて現実を見ずしてこんな対策を取らない様に願うばかりです。

    Comment by 北割 — 2009/10/1 木曜日 @ 11:50:39

  4. gakuさん始めまして その駆除にあたる側の猟師です
    幸か不幸か私が纏める組織の狩山には熊は生息有りませんこれは
    その北部に結構な生息被害がある事からある事実?高速道路が
    これの移動妨げに成ってるのではとも考えています 熊以外野獣の
    増殖による食害は可也由々しき状況で 地区の責任者や地権者の
    依頼を受けての駆除従事が多く成りました その中で固有種此処で
    触れたいのは特に鹿ですが これは猟師が高齢化し奥の高い場所に
    狩り入れないため 此処15?20年程で約8倍への増殖密度で放牧場と
    揶揄する登山者まで居ます  それによりクロ(ニホンカモシカ)
    が追いやられその段階と同時進行で 特有の伝染病があったのではとも
    感じています(長く成りますので今回は省きますね)戦前先代からの
    受け継いだ価値観の中では 以前に比べ種の増減よりも気に成る事に
    人を恐れなくなった 猪も鹿でも最近は屋敷の直ぐ軒下そう言い表せる
    住居近い場所を寝屋にしています 進化というのでしょうか?変質は
    著しいですね 今回ネット間での友人の紹介でお邪魔しましたが 現場
    活動のなかでの実態というのか現状をお伝え出来ればと思います。

    Comment by (^(工)^) — 2009/10/1 木曜日 @ 15:04:26

  5. 人工と自然、人と動物を兎角対局に描きたがる風潮に対し、
    真っ向から意義を突きつける迫力があるすごい写真ですね。

    これが事実なのに、
    一般にメディアからもたらされる情報は
    どこかセンチメンタルなものばかり。
    ウケの良いものを提供する商業主義が目を曇らせているような
    気がしてなりません。

    このような写真が、そういった”曇り”を晴らしてくれることを
    願わずにいられません。

    Comment by さかまさ — 2009/10/1 木曜日 @ 22:08:14

  6. ■もっち、小坊主、北割、さかまさ さん
    ありがとうございます。

    ■(^(工)^) さん
    >高速道路がこれの移動妨げに成ってるのではとも考えています 
    こちらでは、高速道路の橋下をどんどんくぐってます。

    Comment by gaku — 2009/10/2 金曜日 @ 21:40:26

  7. よくぞこんな写真が撮れたなと驚くばかりです。
    私は獲る方ですが、gakuさんの熊に対する思い入れ、執念にはただ頭が下がります。

    野生の動物は賢い物で、自身が置かれた環境に順応して生きて行くことにたけていますよ。

    近年 北海道でも「新タイプ」のヒグマが現れているようで、「人を恐れない、冬眠しない」こんなヒグマが出現して来ていると言う証言が有ります。

    旧来の熊に対する思い込みを(かなり間違った)、今 語る事には無理が有ることを認識して欲しいと思いますよね。

    Comment by 北の狩人 — 2009/10/2 金曜日 @ 22:10:25

  8. ■北の狩人 さん

    >よくぞこんな写真が撮れたなと驚くばかりです。

    まだ、公開できない写真も数多くあるのですが…

    >旧来の熊に対する思い込みを(かなり間違った)、今 語る事には無理が有ることを認識して欲しいと思いますよね。

    人間社会がこれだけ変化してきているのですから、人間自身がもっと柔軟な思考になっていかなければ、保護も間引きも適正を欠くのではないかと思っています。

    Comment by gaku — 2009/10/3 土曜日 @ 11:30:21

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