なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2009/1/2 金曜日   ツキノワグマ日記

耳にタグ首に発信機首輪をつけた熊の行方…

右耳に赤いタグ、首にはアンテナ付きの皮首輪をつけた体重80?100kgの雄のツキノワグマ。
この熊に出会ったのは、2007年9月のことだった。
あまりにも特徴があるので、無人撮影カメラに写されればすぐに分かる個体だった。

この熊は、中央アルプス山麓にある民家の庭のいけすの鯉を狙ったり、ミツバチ箱を狙ったり、とにかく人間をまったく警戒しなかった。
ボクの無人カメラの複数台に記録されつづけた姿を見ても、きわめて度胸の据わった個体といえた。
耳タグを付けられたり、発信器を付けられた熊は、人間に捕獲されたことのある熊なのであるが、その後の行動をみれば、捕獲されたことで度胸が据わるのか、比較的大胆な行動に出ているものも少なくなかった。

「右耳赤タグ首輪オス」と名付けたこの熊は、2008年の9月にボクの設置した「クマクール」に入り浸った。
クマクールとは、7種類の植物を漬けたり乾燥したりして加工ブレンドした熊がよろこぶ媚薬である。
これは、ボクが独自に開発したものだ。
マタタビに猫が翻弄されるみたいに、ほんとうに熊が興味を示して来るから「クマクール」なのである。

そのクマクールに、このオス熊は3週間も居着いてしまった。
しかも、これまでメイン行動にしてきた場所から直線で4kmも離れた山中である。
そこまで至るには、最短距離でやってくるなら集落を通過することだし、集落を迂回するにはあまりにも大回りとなる。
どう考えても、この大胆な熊が迂回コースをたどるとは思えなかった。

クマクールの現場には3頭の熊がやってきていたが、「右耳赤タグ首輪オス」は1日おきにやってきて、6時間以上も居座っていくことも少なくなかった。
あんまり居座っていくものだから、ボクは内心これでは「まずい」なとも思っていた。

その「右耳赤タグ首輪オス」が、ある日からまったく来なくなった。
季節もめぐり、熊の嗜好に変化が起きてきたのかも知れないと思ったが、その意味を考えあぐねていた。
さらに、ひょっとしたらどこかの檻に入ってしまって捕殺されてしまったのかもしれない。

しばらくして、噂が届いてきた。
やっぱり、「右耳赤タグ首輪オス」は捕殺されていたのだった。
それも、はじめに出会った場所まで戻っていた。その先で、すぐに檻に入ったらしく捕殺されたのだった。
どうやら、首輪も捕殺現場近くの木の枝に放置されているらしい。

発信機を付けた首輪は、電池が切れたころには自動的に外れる、ことになっている。
少なくもボクはこれまで、そういうものだと思ってきた。
ところが、「外れない」らしいのだ。

伊那谷の地域をはるかに越えたある猟師がぼそりと語ったことがある。
『昨年クマを撃っただよぅ。そしたらなぁー、首輪が食い込んでいてよぅ。それはそれは可愛そうだったぜ。クマは苦しくてヨタヨタしていたよ。だから、簡単に撃てたんだが、首輪って自動的に外れるものではないのだ、な?』
また別の地域に住む猟師もさらに話しを加えた、
『あるところには、同じような首輪がもう10個以上もあるよ。いまだに持ちにこないのだから、電波なんて発信されていないのだな。行動研究っていっているけれど、関係者は本気だして熊の調査しているんかいなぁー。税金のムダ使いをやっているんじゃあ、ねえのかぁー ?』

これは、ボクにはショッキングな話しだった。
ツキノワグマの調査には、今の時代なので科学的な研究も絶対に必要なことだとボクは思っている。
それも、いろんな角度から調査を進めていく必要があり、発信機も選択肢の一つだからである。
しかし、そこには技術的な差が大きく左右してくるのであろう。
捕獲された熊に発信機を付けるまでは、ある程度の技術があれば可能であるが、問題はその後である。
発信機の電池が切れる前に再捕獲など永続的に追跡ができるようにするのも、「技術」である。
予算が下りてくるからといって、たくさんの熊に高価な発信機だけをつけて電池が切れればタコの糸が切れた状態にしておくのはよくない。
たとえ1頭の熊でもいいから、「クマの一生」を追えるようなトータルな技術確保こそ、現代の時代には必要なことではないか、と思う。
こうした真摯な研究を続けていけば、地域住民の理解も得られることだろうが、耳タグは付けっぱなし、その後の行動把握もしていない。首輪も放置して熊の首に食い込ませている。しかも「手当て」だけはたんまりもらっているとなれば、やはり地域社会からの支持は得られないだろう。

こうした噂と事実が農民や地域住民にすでに伝わっているから、内密にどんどん殺されていくという現実がそこにはあるからだ。これは、熊のためにも決してよくないことだし、地域住民のためにもならない。

写真:右耳に赤いタグ(番号も判明している)、首に古い皮首輪がつけられたオスのクマ。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

1 件のコメント »

  1. 本年もよろしくお願いいたします。

    動物調査のトバクチでうろうろしている連中に限って発信器を付けたがるんですわ、いかにも「調査している気分になる」からでしょう。
    男子学生は、クマが捕まるまでは熱心だけれどその後は急に冷めるようで、その後の追跡調査は女子学生の方が熱心だそうです。

    これは「ナンパ」を経験していると納得できますね。

    コメント by くまがい — 2009/1/4 日曜日 @ 17:59:38

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