熊たちに人間が負ける日
長野県の南西部には、過疎の村がいくつもある。
人口が1000人を切ったり、それに近いところもある。しかも、老齢者ばかり。
最近は、そんな過疎地の山野を歩くようにしている。
つい30年ほど前までは人間の活動もさかんだったが、過疎となって人も山野に入らなくなっているので、山中での野生動物たちの動きを知ってみたいと考えているからだ。
初めて入る山には、相棒のイトちゃんも一緒になって出かけることがよくある。
そんなイトちゃんと先週の日曜日に入った山での会話。
g 「イトちゃん、今日はあの鬼平山を攻めようぜ」
イ 「よしきた、楽しみだけど、険しそうだ、な。とりあえず、植林されているヒノキ林から登ろう」
ボク等は、ゆっくりと登りはじめた。
ヒノキ林は、樹齢30年ほど。この林は地主もまだ希望をもっているらしく、枝打ちなどの手入れが行届いていた。
g 「イトちゃんよぅ、このヒノキ林はあと5年もすると、歩けなくなるぜ。このクマザサをみてごらん、すごい勢いで元気づいているだろう?」
イ 「そうだなぁー 最近はほんとうにどこの山もクマザサが凄いことになってきているなぁー」
g 「おいおいイトちゃん、これをみてくれよ。クマが木の根元に傷をつけているぜ、やっぱりいるんだなぁー 熊」
イ 「gakuさぁー ほれイノシシの寝巣があらぁー」
g 「ほんとだぁー しばらくここで暮らしておったな、イノシシめ」
イ 「おいおい、この穴は、あと50年すりゃー 熊が寝るなぁ」
g 「この爪あとみてごらん、大きな熊がちゃんと覗きにきているぜ」
イ 「おや、その爪あとだけは俺も見落としていた、なぁー」
g 「このコメツガの木をみてごらん、150年は経っている。まわりの木にくらべたら年齢的にいっているから、昔の山仕事の人たちは意識的にこのような木を残していたんだなぁ
しかも、幹には熊の爪あとがちゃんとある。それも、2ヶ月以内で新しいぞ」
イ 「あの穴もあやしいな、小さいけれど、光っているぞ、テンが入っているんじゃあないか?」
g 「でも、あの光りかたは冬までのものだぜ。いまは、留守だよ」
イ 「念のため、幹を叩いてみるかぁー」
g 「おい、この地面をみてごらん。熊がジバチを掘ったあとだ、ぜ」
イ 「ほんにゃー ごっそりやっている、な。
おいgakuさぁー 来てみぃ いい樹洞があるけれどあと10cm大きければ熊が入るぜ」
g 「おおー ほんとだぁー こんど次にはチェンソー担いできて穴をひろげてやろう、ぜ」
イ 「またジバチを掘ったあとがあるけれど、これはハチクマの仕業かいなぁー ちょっと見てくれるぅ?」
g 「そうだな、これはハチクマの仕事だ」
イ 「クリの木の皮剝ぎがあるぞぅー これは珍しいなぁー」
g 「ほんに、それは珍しい。しかし、これは冬眠穴づくりを急いでいる証拠だ、な」
イ 「あのウワミズの幹みてごらん、昔の爪あとに今年のがピタリと重なってらぁー」
イ 「ここの朽木では、熊が虫を食べていったなぁ」
g 「それより、イトちゃんよぅ、オレたちがいま歩いているところは熊の道だぜ。
クマザサなのに、笹が足にからまないだろう。
こういうところは、熊が足しげく歩いている証拠なんだよ。しかも、クマザサが古いだろう。通り道のタケノコを熊が食っているから笹も古い、のだ」
イ 「ほんとだぁー そういわれれば、たしかに足にからんでこない、ぜ
やっぱり、相当に熊がいるんだなぁー たまげる、なぁ」
g 「ところでイトちゃんなぁー 熊をはじめとする動物たちのために山や木を買いとる『トラスト』運動があるけれど、この山を見るかぎり、猛烈な勢いで自然界のトラストが進んでいるんだぜぇ」
イ 「そうよなぁー 山を知らない都会のマンション族はちっとばかりの自然を買いこんで、自然保護をやったような気分になっているけれど、それより猛烈なスピードで自然が変わっていることに気づいていないんだな、
なんだか、気の毒になっちゃうなぁー」
g 「おーい 雨が降ってきたぜ、濡れたら風邪ひくから、今日のところはこれで引き上げよう…ぜ。
おっとイトちゃん、ここで熊のニオイがするけれど、分かるかぁー?」
イ 「俺は鼻が悪いからなぁー」
g 「いや、5mさがってごらん。そして、ゆっくり深呼吸しながら歩いていってみるといいよ」
イ 「あ、ほんとうだ、これが熊のニオイというものかぁーー しっかり覚えたぞぅー」
g 「そうだ、ニオイだけは現地で説明してあげないと分からない。人間というものは、普段使わないと五感が萎えるものだで、な。しかし、意識して使えば五感もよみがえるものなんだよ」
たった二時間半の山歩きだったが、ものすごい収穫だった。
過疎地の山は、ほとんど人が入らなくなっているので、すでにツキノワグマをはじめとする野生動物たちの天下なのである。
私たちの知らないところで、このように野生動物たちが元気づいていることをこの鬼平山でも知ることができた。
「夏草や兵どもが夢の跡」とはよく詠んだもので、すでに人間が野生動物たちに自然界を明け渡している事実がここにもあったからである。
わずか二時間半の新しい場所での山歩きなのに、ボクとイトちゃんが歩けば、こんなにも自然界からのメッセージを読み解くことができてしまう。現地にはまだ暮らしている村人たちもいるが、こうしたサインをほとんどの人が見つけることもできずにいるのも事実だ。それは、自然を見るセンスというものだろうが、過疎地に残っている人たちでも自分たちの生活の場を理解してない人がほどんどだから、だ。
ここでもボクは、ツキノワグマが次の時代に向けて確実に勢力を拡大させるための準備をしていることが分かった。
写真:たった2時間半でこれだけのサインを読めた。
これらの写真の意味がわかれば、あなたもツキノワグマの生息地を楽しく歩くことができるだろう。
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すごい会話です!
机上で議論している偉い学者さんたちが、どんなに時間をかけても絶対ここまで掘り進めないでしょうね。
>猛烈な勢いで自然界のトラストが進んでいるんだぜぇ
このこと(意味)を理解できる人たちが、今の日本にいったい何人いるのか・・・いやぁ、本当、出来ることなら宮崎さんとイトちゃんと一緒に山に入ってみたいものです。
コメント by もっち — 2008/10/15 水曜日 @ 13:03:42
>宮崎さんとイトちゃんと一緒に山に入ってみたいものです
同感です!もっちさんとも御一緒して山林に入ってみたいですね。
コメント by 粗忽鷲 — 2008/10/15 水曜日 @ 18:22:44
もっちさんに、その気があるのなら、いつでも連れてってあげますよ。
粗忽鷲さんも、ね。
コメント by gaku — 2008/10/21 火曜日 @ 10:33:04
定年まで真珠を扱う会社にいて、今マンション管理人の山遊び大好き爺さんです。お二人の会話、刮目して読みました。私も連れて行って下さい!
今は埼玉人ですが九州の出身です。私の故郷では杉を植えすぎて、見た目青々としてはいるけど、鳥も獣もいない、水も生まない(植林した杉は保水できないのです)「沈黙の」山なみが連なっています。率先して熊とカワウソを絶滅させてしまいました。本州の熊が絶滅するのは、同じく奥山の広葉樹が激減して、エサがなくなった時です。里を「トラスト」して結局は害獣として殺されるでしょうから。その次に水が激減するでしょう。山屋は、近年どこも沢が細くなったと実感していますよ。当たり前ですが、水がなければ何も生きてはいけません。熊と共に人間も滅びるのです。SFじみてますか?
コメント by わきん — 2008/11/6 木曜日 @ 23:01:14
■わきんさん、はじめまして。
>本州の熊が絶滅するのは、同じく奥山の広葉樹が激減して、エサがなくなった時です。
そんなことはありません、現実の日本の山野を見て判断してください。「山をみて木を見ず、木をみて山を見ず」そんな人ばっかりなんです。
>里を「トラスト」して結局は害獣として殺されるでしょうから。その次に水が激減するでしょう。
これも、自分の目で現実を見てから判断してください。
>山屋は、近年どこも沢が細くなったと実感していますよ。
そんなことはありません。ずっと、変わらない水量の沢がたくさんあります。
>熊と共に人間も滅びるのです。
現在の日本の山野を見届けるかぎりにおいては、人間は滅びるかもしれませんが熊は滅びません。
>私も連れて行って下さい!
いやです。
このように初めから自然観を決めつけてしまっている人には現場で説明するのも疲れますし足手まといとなりますから。
コメント by gaku — 2008/11/12 水曜日 @ 21:42:14