いったいツキノワグマは何頭いるのか…?
2008年も、すでに10月。
8月下旬からの1ヶ月間は、ツキノワグマの出現調査でほんとうに忙しかった。
ボクのフィールドにも、いたるところにクマが出現していたからである。
そして、かなりの数のクマも捕殺された、らしい。
このような出現や捕殺は、ここ数年間同じように続いている。
なので、一体全体、ツキノワグマは何頭いるのだろうか?
世間一般が想像して考えている数より、かなり多数の生息が実感できる。
ボクとしても、いま、その実態をいちばん知りたいと思っているところである。
そこで、もう何年かにわたって設置してある無人撮影カメラのツキノワグマの動きと同時に、捕獲檻も密かに調査している。
捕獲檻は、イノシシやサルの有害駆除を目的として設置されているものだが、ここにツキノワグマがかかるからである。このような捕獲檻は、ときには同じ場所に10年単位で仕掛けられて稼動している。
これは、海でいうならば「定置網」といっていいだろう。
定置網には、目的以外にもいろいろな魚が捕獲されるのが常である。
だから、捕獲檻の結果はツキノワグマを知る意味でも重要な材料になるからだ。
また、固定式の檻にくわえていくつもの移動式檻もみられる。これらの檻は、ボクの無人撮影カメラの台数よりも多い。
なので、これらの檻もできるかぎり見つけ出して、追跡している。それらの檻に、ツキノワグマがかかると、あるサインが必ず残されている。だから、そうしたサインを見落とさないようにして、この現場では何頭のツキノワグマが捕獲されたのかを探る必要があるからだ。
そのためには、檻設置者に悟られないようにきめ細かく動いて、なるべく鮮度のいい情報を得なければならないと思っている。
そして、捕獲されたツキノワグマが放獣されたのか、その場で殺されたのかも視野にいれながら、調べていくのである。
現場でツキノワグマが捕殺されれば、その個体はその後は絶対に行動しなくなる。だから、無人撮影カメラにもそれらの動きが反映されてくるハズである。こうした「捕殺」も、周辺のクマ個体密度を探る手がかりになると考えている。
それなのに、何頭ものクマが捕殺されているにもかかわらず、ここ数年間の推移をみていけば、その地域に必ず予備軍がいて、クマが復活してきているという事実である。
捕殺するには、それなりの理由もあるようだ。
まず第一には、周辺の農家からの支持があるからである。
農家にとっては、農作物は荒される、家のまわりをうろついて危険なのだが、行政などはクマに襲われて被害がでるまでは「駆除」してくれない。だから、補償もなにも期待できない現実のなかで生活をしなければならない地域住民は、子供のころからの顔見知りで地域住民としての連帯感のある「猟師」に期待するしかないのだ。
猟師も実際に現地に一緒になって暮らして自分自身も農業をしているので、農家の苦しみも分かっているし、なによりも地域の野生動物の動向もすべて承知しているから農民に協力するのである。
また、田舎では子供たちが3kmも4kmも歩いて、登下校をしている。
そうした通学路がクマたちの活動する緑の回廊にあり、そこを歩かせる父兄たちは周辺地域にツキノワグマの痕跡を見つけるたびに心痛めているからである。
子供が通学途中に襲われて、目や鼻や頬肉をその鋭い爪でもぎとられてもいいと思う親は一人もいるまい。それなのに、襲われたほうが「いけない」というようなツキノワグマだけを保護する風潮のなかで、これはあまりにもリスクが大きすぎる。
だから、親たちのなかには通学路の安全が確保されるなら『クマはいないほうがいい』、と思っている家庭も少なくないのである。
こうした地域住民への配慮もあるから、有害駆除として市町村長サイドから捕殺許可も下りるからである。
とにかく、高密度で生息するツキノワグマと背中合わせで生活している地方では、都会生活者には考えられない苦労もあるのである。
ボク自身も、ツキノワグマがむやみに殺されていくのは忍びない。
できることならば、生かしておきたい。
そのためにも、まずはツキノワグマの実態を知ることが先決なのである。
そのうえでほんとうに絶滅が危ぶまれるほどにツキノワグマが数を減じていれば、ボクだって先頭にたって、「保護」を訴えていくであろう。
写真:サルの捕獲檻だが、ここにもツキノワグマが毎年何頭かが入りこんでいる。
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はじめまして、山間部に生活する者です。
この記事の後半部分のくだり、全面的に同意するとともに、
「よく言ってくれた!!」の気持ちを込めて手のひらが腫れる
程の拍手!!
コメント by 村San — 2008/10/7 火曜日 @ 21:10:58
またまた出てきてしまいました。
この記事の中盤以降はまさに行政で現場に携わる者が誰しも持つ苦悩です。よくぞ取り上げてくれたと思います。マスコミもこのようなクマの被害に苦しんでいる現場の現状をもっと深く掘り下げて取り上てほしいと思います。その上で、クマ問題に直面している人にもそうでない人にも「それでも放獣を支持しますか?」あるいは「それでも捕殺は間違っている」、「ではどうすればいいですか?」、「(捕殺にしろ放獣にしろ)何が壁になっていますか? どうすればその壁を乗り越えていけますか?」などの問題提起をしてほしいと思います(というか取り上げるからには少なくてもこのくらいのことまではするのがマスコミの責務だと私は思っているのですが、これは言い過ぎでしょうか?)。
ところで、クマ問題で私が現場に携わっていたとき、地元住民からよく聞かれたとても印象的な言葉があります。彼らは言いました。「では、ツキノワグマがいなくなると、我々の生活や生命にどのような悪影響がでるのか?それを教えてほしい」と。そして、「ただ少ないから保護しなければならないという理由では、我々は(ツキノワグマの保護や放獣に)協力も賛成もできない。いつどんな行動を取るか分からないクマのいる地域で生きている我々の立場も少しは考えてもらいたい」とも言いました。これで更に「では、クマは絶滅したと言われている九州や四国では、それで何か不都合なことが起きたのか?」とまで突っ込まれたら、私はいよいよどうすることもできないところでした(さすがにここまでは突っ込まれることはありませんでしたが)。
「そんな問題ではないだろう」ということは私なりに重々承知しているつもりです。まして人間視点だけの見方に賛成するつもりも毛頭ありません。ただ、「絶滅するとこれだけの惨事が巻き起こるよ」という具体的な根拠を提示することなく、「(多少被害が出ることはあっても)ツキノワグマを保護していきましょう」と言っても、(特にクマ問題に悩んでいる住民にとっては)理解や協力を得るのは非常に難しい。これだけは確かなのではないでしょうか。
コメント by もとりんむ — 2008/10/8 水曜日 @ 21:28:14
残念ですが、日本国民の中でツキノワグマが絶滅しても困る人は殆どいないでしょう。
(ツキノワグマで生計を建ててる方は50人いるでしょうか?)
もちろん、残念に思う人は沢山いるでしょうが、絶滅して喜ぶ人(+無関心の人)の方がズット多いことでしょう。
よくその種が絶滅すると生態系のバランスが狂うとか言いますが、雑食性のツキノワグマが滅んでも影響は無いに等しいでしょうし、それ以上のバランスはとうに人間が崩していますよね。
コメント by ぬこ — 2008/10/10 金曜日 @ 15:10:34
ぬこ様
>残念ですが、日本国民の中でツキノワグマが絶滅しても困る人は殆どいないでしょう。
(ツキノワグマで生計を建ててる方は50人いるでしょうか?)
もちろん、残念に思う人は沢山いるでしょうが、絶滅して喜ぶ人(+無関心の人)の方がズット多いことでしょう。
こんなこと言うのもどうかと思いますが、正直私もそのとおりだと思います。もっとはっきり言えば、「かわいそう」「彼らの生き場所を奪ったのは誰か」というのは、よほどの愛護家かクマと無縁の生活をしている人が大部分(言い過ぎ?)ではないかと思います。
私がこの問題に携わっていた時、クマの住む地域に住んでいる人たちの話を何度となく聞いてきたのですが、彼らの言い分や考え方に対して、正直身勝手で自分本意だと感じたこともありました。でも、彼らにとっては生活や生命がかかっている。それもまた無視できない事実なのです。極端なことを言えば「将来の惨事を案ずる」よりも「いかに明日が無事に迎えられる」かの方が重要なのです。そして、それは決して責めることができないと思うのです。
繰り返しますが、彼らの言い分に全面的に賛成するつもりはありません。ただ、まずは彼らの心情をできるだけ酌むことから始めないと、クマの住む地域に住んでいる人たちには「そんなにクマ、クマと言うが、じゃあ俺たち人間よりもクマの方が大事なのか」としかならず、保護論者の考え方に理解を示すことはないと思います(私の話し方もまずかったのかもしれませんが)。そもそも彼らにとって~非常に残念で残酷な言い方になりますが~クマは「いなくなってもらった方がいい」存在なのですから。
コメント by もとりんむ — 2008/10/10 金曜日 @ 21:12:45
昨日は本サイトに初めてお邪魔して、この記事だけ読んでコメントさせてもらいました。
そして一通り読ませていただいてまず思ったことですが、「なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ」というサブタイトル?が先頭についているのですが、現状までに分かった範囲で構いませんので「なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?」の理由を教えてくれませんでしょうか?
よく「小熊を連れている母熊は子を守るため」とか「突然出合って驚いて襲う」とか聞きますが、過去の事例を見るとそれだけではないようですよね。
人を食うために襲うんじゃないだろうから、単に見境のない猛獣ということなんでしょうか?
ここがかねてからの疑問なのです。。。
この理由によってツキノワグマへのイメージも変わってきます。
コメント by ぬこ — 2008/10/11 土曜日 @ 20:08:01
>雑食性のツキノワグマが滅んでも影響は無いに等しいでしょうし・・・
健全な社会を構成していた者が滅ぶことは不健全な社会になるということだから、影響は計り知れないほど大きいと思いますが。
・・・価値観の違いでしょうけれど。
コメント by くまがい — 2008/10/14 火曜日 @ 3:22:43
>健全な社会を構成していた者が滅ぶことは不健全な社会になるということだから、影響は計り知れないほど大きいと思いますが。
健全?っていいますが、では肉食のニホンオオカミが滅ぶ前はどういう状態だったと言うのでしょうか?
超々健全な状態?
影響は計り知れない?って、計り知れると思いますが。。。
もとりんむさんも書いてますが、クマは絶滅したと言われている九州や四国では計り知れないほど大きな影響が出ていると思いますか?
価値観の違いというよりも、くまがいさんの情緒的な脳内感情の問題だけだと思いますが。。。
コメント by ぬこ — 2008/10/14 火曜日 @ 6:38:17
>「なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?」の理由を教えてくれませんでしょうか?
それは、ツキノワグマの数が増えているからです。
数の少ないところでは、人身事故もありません。
したがって、事故の多いところほど、行政をはじめ、地元の専門家や研究者が確かな視線で自然界全体の動きを見極められるスキルを養わなくてはならないのです。
そのことが、今日の日本でいちばん欠けているところ、なんです。
それなのに、クマの密度の高いところで、九州と同じレベルのモノサシで自然界を語ってはばからないエセ専門家が多すぎます。
この30年間で確実にツキノワグマが増えている地域があるのに、「減っている」といいつづける専門家がいるとすれば、それは、社会的混乱を招いているといってもいいでしょう。
コメント by gaku — 2008/10/14 火曜日 @ 21:31:32