なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2006/9/28 木曜日   ツキノワグマ日記

散歩道でツキノワグマが人を襲う… 8

耳タグ2枚写真

2006年9月20日午前7時50分ごろ。

長野県小谷村千国乙の農道で通学途中の中学男子生徒(14歳)がツキノワグマに襲われて、顔などに大怪我をした。

2006年9月22日午前3時40分ごろ。

長野県安曇市三郷の市道で新聞配達の64歳のおじさんがバイクでクマと接触したが大声をあげてクマを退散させた。

2006年9月25日午後11時30分ごろ。

長野県白馬村北城の村道(役場に近い村中心部)で、歩いていた39歳の男性がクマにのしかかれて軽傷を負った。

長野県内の地方版新聞には、このようなニュースが後をたたない。

いずれも、長野県の北アルプス山麓で起きたツキノワグマとの遭遇事件だ。

こうしてみると、北アルプスにはツキノワグマが多いように感じられるが、南アルプスの山奥に林道工事で出かけているボクの親友は仕事中に毎日のようにクマを見ている。しかし、彼は遭遇してもボクにその事実を伝えてくれるだけだ。

南アルプスは山が深く人里からも離れているところが多いので、一般的には遭遇事件が少ないからニュースにならないだけで、ツキノワグマは予測を上回る数が生息している。

そして、中央アルプス山麓では、ニュースにしていないだけで毎日のように40頭以上のクマをボクは身近に感じながら仕事をしている。

かねてからボクは言い続けてきているがこうした実体験を踏んでいると、ツキノワグマは長野県内では確実に増えており、いまや緊急調査をしなければならないほどになってきているのだ。

調査といえば、捕獲したツキノワグマに発信機をとりつけてその行動をチェックしただけで、調査が完了したように思われていることも困る。

数頭の個体に発信機をつけて行動圏を探り出したところで、人的被害を発生させているツキノワグマの根本調査にはほとんど役立たないからである。

また、捕獲したクマの歯を抜いて年齢調査などもしているが、これとて研究者の自己満足にはなっても被害を受けている農村社会には意味を見出せないことである。

長野県内にどれほどの数のツキノワグマが生息していて、それらのクマが人間社会にどのような影響を及ぼしてきているのかといった「密度」を調べられる研究者とか専門家がいない、からでもある。

もちろん、日本中にもそのような人はいないであろう。

研究とか調査にはアイデアも必要であって、アイデアは技術的な裏づけがなければでてこないものでもある。

ボクがもし研究者なら、人里に近い林にまず定点カメラを置き、さらには中山、奥山と何箇所かをメッシュカバーして数年間以上に及ぶ永続的な撮影をしながら個体密度を把握してみるだろう。

耳タグだけでは個体識別も不十分だから、捕獲したツキノワグマのお尻には大きく目立つ「焼印」を押す。

こうすれば、耳タグだけをつけて「調査」を遂行しているつもりでいるところにも、有効的結果を加えやすいであろう。

捕獲しては再放獣しているだけの無駄の多い調査にもこのようにマークしたツキノワグマもいれば、新たな進入個体との区別もつけることができる。

ついでに、体高や体重まで自動的に測ってしまうことも技術的には可能である。

横尻2枚写真

こうした基礎的調査すらもされないまま、ツキノワグマのことが安易に語られすぎてしまうから社会に誤解も発生しやすい。

道路工事など箱もの的な公共事業には大金が費やされていくが、野生動物の調査には一般社会からの関心が少なすぎると思う。

そして、研究者やアセスも含めて、既成の調査技術から脱却できないままでいる意識と人材不足にも責任の一端があろう。

今回のツキノワグマとの事故にしても、公共事業で展開されてきた「道路」上で起きていることに関心を示すことも必要である。

小谷村で起きた事故は、通学中の中学生には予想もできなかったことであろうし、その結果が一瞬のうちに人生を狂わす事件となってしまった。

ほんとうにお気の毒だが、自然度の濃い長野県ならば今後もこのような事故がどこで起きてもおかしくないのである。

中央アルプス山麓の伊那谷では、今年だけですでに50頭近くのツキノワグマが捕獲されて「再放獣」された事実のあることを付け加えておく。

これらのクマたちは、ボクのフィールドとも重複しているから、今後の調査が楽しみでもある。

写真上:捕獲されたクマに耳タグがつけられて再放獣されたのがカメラに写された。

     このクマは、捕獲地からまったく移動することなくすでに2年間も同一地域を行動しているから、人間に対する憎しみも少なからず抱いていることだろう。

写真下:調査をするには角度によってはツキノワグマの耳がかくれてしまうことがあるので、体には大きな「焼印」も必要だろう。

     このような焼印調査は、アザラシやトドなどでは国際的に行われていることである。

(from/ gaku )

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