なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2008/7/12 土曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマが被害を与えるヒノキ林…

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今年(2008年)の5月連休だった。
ボクは、南アルプス山麓にいだかれたある寒村へでかけた。
急峻な山中から森林を伐採するチェーンソーの音がしていたので、惹かれるように斜面を登っていった。

3人の山林労働者が、それぞれにエンジンチェーンソーで、樹木を次々に伐採していた。
それらの木は、ほとんどがカエデやブナなどの樹木たちだった。
樹齢は40?80年で、見事な森を形成していた。
面積にして5ヘクタールくらいが、すでに皆伐状態だった。
その隣には、前年度に伐採されたハゲ地面が広大につづき、そこには「ヒノキ」の苗木がすでに植林されていた。

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休み時間になったので、伐採労働者と話をしてみた。

私   『ヒノキ植林のための伐採ですか?』
労働者 『そうさ、ねぇー』
私   『ここは個人の山なんですか?』
労働者 『そうだと思うけれど、我々は公団から頼まれてやっているだけだで、詳しくは知らない…
     木を切れといわれれば切るし、植えろといわれれば植えるのが仕事だから…』
私   『倒した木は、現場に放置されているけれど、パルプにも使わないのですか?』
労働者 『ちゃんと資源を無駄にしないようにすればいいのだが、これらの木は運搬費のほうが高くつくので、このまま現場に放置なんじゃよ…』
私   『もったいないハナシ、ですねぇー』
労働者 『ほんと、我々もそう思うけれど、どうしようもないんじゃよ』
私   『ニホンジカ対策の防護ネットだけでも、たいへんな金額になりそうですね』
労働者 『これも、みんな経費は補助金がでてるからねぇー』
私   『ヒノキを植えても、近所のヒノキはみんなツキノワグマにやられているから、ここも20年後には全滅しますね』
労働者 『たぶんそうなると思うけれど、我々はそこまでは考える必要もないし…』

これだけ話をすれば、ボクには十分だった。
現代人は、自然から何も学んでいないことを再認識しながら、現場でボクは悲しくなった。
できれば、このまま50年以上も生き抜いて、この現場がどうなっていくかを自分の目で確かめたい気分だった。
年齢的にもそれができないから、ボクはせめても「視覚言語」となる写真だけは残しておこうと思った。

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ここに来るまでに、ツキノワグマが植林ヒノキやスギを全滅状態にしている現場を見てきただけに、この伐採地にヒノキを植林しても、まちがいなく「全滅」するからである。
ヒノキを植えてはいけない地形と地盤だから、である。
それなのに、だれもそのことには気づいていない。
ほんとうに、愚かなことをやっている、と思った。

仕方ないから、何故ヒノキを植えてはならないのかといった理由を自分なりにきちんと写真に撮って残しておこう。
経済一辺倒できたこの半世紀の日本社会は、自然界から微妙なサインが出されているのに、それにはまったく気づこうとしなかった。
そして、今現在でも、超過疎地の山間の村で、このような愚挙が繰り返されている。
それを見て、よろこび、あざ笑っているのがツキノワグマとニホンジカたちであろう。
だからボクは、この先50年、100年に向けたメッセージを写真家として残すべきだと思っている。

写真上:広葉樹の森林が一瞬のうちに伐採されて、いた。
写真中:フェンスはシカ対策なのだが、これも補助金でまかなわれている。
写真下:地続きのヒノキ林ではクマ対策用にテープが巻かれていたが、被害が広がっていることをこのテープが物語っていた。

(from/ gaku )

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