なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2008/5/5 月曜日   ツキノワグマ日記

迷子になったツキノワグマの子供たち

koguma.jpg

携帯電話が鳴った。
出てみると、隣町に住むタダさぁーからだった。

『おおーーい、ミヤさん、大至急きてくれやぁ。
 俺んちの田んぼに、クマだと思うんだけれど、足跡があるんだぁー
 オレじゃあ、確認できないから、とにかく確かめてくれやぁー 』

田植えの準備で水を張り、踏ませの済んだ泥土に、足跡は確かにあった。
まちがいなく、ツキノワグマのものだった。
だが、あまりにも小さい子熊の足跡だった、のである。

田んぼはタダさぁの自宅前。
こんなところに、子熊といえどもツキノワグマがやってきていたのだった。

ここで、ふと思ったのは、一昨年(2006年)の秋のこと。
この近所で2頭の子熊を連れた母熊が、殺されている。
母子3頭一緒に、イノシシの檻に入ったそうだ。
それなのに、2頭の子熊は30分ほどのあいだに9cmメッシュの檻から、逃げ出していた。
結局、母熊だけが殺され、子熊の消息は不明になっていた。

その子熊たちが、どうやら生き延びて春を迎えたらしい。
2頭のどちらかは分からないが、母親に連れられて歩き回った場所を、こうして歩いていたのだった。
逃げ出した当初の子熊を目撃した人の話では、それはそれは小さな熊だったという。
体重も、5kgほどしかなかったのではないか。
そんな子熊が母親を亡くして冬を生き延びれるとは、誰もが思わなかった。
だが、2頭生き延びたのか、1頭だけだったのか、とにかくこうして母親と行動を共にした場所をめぐり歩いている、のである。

dsc_4870.jpg

2007年の5月は、このような子熊の目撃例が相次いだ。
ボクの知る限りでは、中央アルプス山麓7,5kmの直線上で5頭の子熊が目撃された。
それぞれに場所も違い、同一地域で複数回目撃もされていることから、これらは明らかに別々の個体といってよかった。
ボク自身もこのうちの3頭を実際に目撃しているが、子熊たちには一様に落ち着きがなくオドオドとしているという共通した挙動があった。
これは、明らかに母親がいないがために、独りで必死に生きていることを物語っていた。
それも、昼間にかなり目撃されながらも、夜間にもちゃんと行動していたのだから、このことから推しても、母親が各所で殺され子熊だけが逃げていたと思われる。
そして、どこかで震えながら冬を乗り切り、春になって再び母を求め、かつて一緒に歩いた記憶を頼りに、母の思い出さがしをしていたのだろう。

これらの子熊がその後どうなったのか、まったくつかめていない。
夏までに、再びイノシシ檻などにかかり、人間の手に落ちた可能性は十分にある。
また、雄の子熊は、成長した雄グマに殺され「共食い」をされるリスクも大きいから、5頭の子熊たちが何頭生き延びたかはまったく不明である。
2008年の春も、そんな子熊がいないかと注意しているが、今年は巨グマばかりが目立つ年でもある。

写真上:迷いながら歩く子熊の足跡が、田んぼにくっきり残されていた。農家の主人にいわせれば、ときどき母親を捜す子熊の「コッ… コッ… コッ… 」という声が近所から聞こえてくる、という。
写真下:この子熊には、近いところでは10mの距離で会っているが、その目はかなりいじけていて子熊特有の可愛らしさがなかった。性格がねじれたまま大熊にならなければよいが…と、ボクは念じる毎日でもあった。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.

このブログへの訪問者