ツキノワグマの学習放獣を考える⑤ 捕獲履歴を消されるクマたち
錯誤捕獲のツキノワグマが、内密に現場でどんどん殺されている。
『「耳タグ」をつけているクマは、里に出てきていちど捕まり、学習放獣されて奥山に返されたはず。
それが、里で再び捕獲されれば「殺してもいい」と法律が変わった。』
このような意見がまことしやかに流れているところをみると、「学習放獣」への疑問がたしかに一般市民にまで広がっているのだろう。
このような自己判断は法解釈の誤りであって、もちろん違法である。
しかし、「耳タグ」をつけていれば明らかに捕獲されたことのあるツキノワグマであって、それを再度「捕獲」してしまった関係者が再び放すことにはきわめて消極的でもある。
そのことを学習放獣している関係者もわかりはじめてきており、捕獲しても「耳タグ」をわざと付けずに放獣もしている、らしい。
こうなってくると、人間にいちど捕まったことのあるクマなのか、そうでないクマなのか、区別がまったくつかなくなってしまう。
そして、こうしたツキノワグマがもし人間を襲ったときの責任はどうするのだろうか?
理由はともあれ、これはいちど捕獲したツキノワグマには必ず目印となる「耳タグ」をつけるべきである。
そうでもしないと、農業関係者や一般市民との信頼関係がどんどん崩れていき、ツキノワグマのためにも社会のためにも、よくないことだと思う。
ボクは無人ロボットカメラを十数台運用しているだけだが、かなりの数のツキノワグマが撮影されている。そして、ボク自身も、ツキノワグマが相当数生息している事実を確実なものとして認識もしている。
こうした認識を無人ロボットカメラはボクに持たせてくれるのだが、カメラの台数より、圧倒的に多いのがサルやイノシシなどの「捕獲檻」である。これらの檻は、もちろん法律を守りながら運用されることを前提にして設置されているのだが、現場では何が行われているのかは誰にもわからない。
その檻に、ツキノワグマも多数が捕獲されていることも確かな事実である。
こうしてみると、檻の数だけ無人ロボットカメラがあれば、ツキノワグマの個体密度だって相当に密度濃く把握できていくことだろう。
それができないまま、ツキノワグマが出現すればドラム缶檻を仕掛けて捕獲しては放獣といったワンパターンの関係が、相変わらず続いている。
何はともあれ、ツキノワグマはいったいどれだけの数が生息しているのか?
それを知ることはとても大切なことである。
それができていれば、学習放獣の頻度や錯誤捕獲されたツキノワグマへの対応の目安もでてくるというものだ。
とにかく、全体数に近いツキノワグマの把握。
そして、どこまで減少すれば、絶滅するのか?
どこまで数の把握ができれば、どれだけ間引いてもいいのか?
そんな答えを出したくてボクは無人ロボットカメラの開発をして、中央アルプスや南アルプスへ設置しながら、少しでもツキノワグマの生息数の探求を試みているのである。
一眼レフデジタルカメラの中古品をコツコツと買い求め、整備して、「無人ロボットカメラ」に仕上げたのが、やっと13台になった。
まだ、13台である。
捕獲檻の数量には、圧倒的に負けているのである。
写真:2008年4月6日 夜9時29分。耳タグと発信器の首輪をつけたツキノワグマが無人ロボットカメラに写された。
こうした目印は、無いよりあったほうがロボットカメラを設置していても意味深くて楽しいものがある。
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お久しぶりです。興味深い話題なので少々・・・
>捕獲しても「耳タグ」をわざと付けずに放獣もしている、らしい。
自分がこの関連の業務に就いていた時は、幸か不幸かこのようなことはなかったようです。
>理由はともあれ、これはいちど捕獲したツキノワグマには必ず目印となる「耳タグ」をつけるべきである。そうでもしないと、農業関係者や一般市民との信頼関係がどんどん崩れていき、ツキノワグマのためにも社会のためにも、よくないことだと思う。
これは「基本的にはその通り!」と言いたいのですが、2年前の大量捕獲時、とある捕獲に立ち会い、捕獲隊の方々に以下のことを言われて以来、「これは果たしてどうなのか?」との思いも持つようになってしまいました。
彼らは言いました。「放獣してそのまま戻らなければそれでいいが、もしタグを付けた個体が戻ってきて、人畜被害が起こったらどうする? 俺たちは地元の人間に『あいつらは人里に戻ってきて被害を及ぼす個体を見抜けなかったばかりか、こともあろうにその個体を放した。人間よりもクマを優先した』とずっと言われ続けるんだ。そんな俺たちの立場や気持ちも少しは考えてほしい」と。
そして、彼らは「どうしても放獣したいのであれば、せめて『この個体は絶対に人里に戻ってこない』と説得できるだけの根拠づけをするべきではないか? そうでなければあんたも含めた現場の人間は大変な思いをするだけだ」とも言っていました。
この言葉、特に後述の言葉は私自身も日頃から感じていた部分もあっただけに恥ずかしい話「痛いところをつかれた」と感じることしかできませんでした。私は、「自分は立場上安易に捕殺を勧めることはできない。でも皆さんの気持ちや現状は本局の方に伝えて、理解してもらうよう努力する。だからできる限りの協力をお願いしたい」と言うのが精一杯でした。そして、自分なりに現状改善に努力したつもりでしたが、結局何も変えることはできませんでした。本当に恥ずかしい話ですが・・・
長くなってしまい申し訳ありませんが、このような現状や考え方があるということも頭に置いていただければ幸いです。
コメント by もとりんむ — 2008/4/23 水曜日 @ 23:00:28
追伸
この話の時の個体は、結局地元住民の強い反対やほとんど市街地とも言える場所に出没した個体ということもあり、捕殺せざるをえませんでした。
コメント by もとりんむ — 2008/4/23 水曜日 @ 23:07:41
個体数の把握については、難しい問題が山積していそうですが、クマの行動追跡をするのであれば放獣時にアルゴスでも付けて、衛星から追跡調査でもすれば、どのような場所で行動しているのか簡単にわかります
数頭に装着して追跡調査でも行えば、学習放獣の効果の評価はできそうな感じがしますね
ただ、森林内でアルゴスが効くのかが少々気にはなりますが・・・・
コメント by 風 — 2008/4/25 金曜日 @ 23:52:18
残念ながら、日本でアルゴスはほとんど役に立ちません。
モンゴルのような平地ばかりなら正確なのですが、日本の地形のように山が多い地形では位置がどうしてもいい加減になってしまうようです。
以前、試しに雲取山の山頂にテレメを置いてアルゴスに追わせところ、「所沢」を指定したそうで・・・「まぁ、当たらずとも遠からず」というのが現状です。
かつてNATO軍がアフガンをことごとく誤爆してしまったのも、同じ理由です。
コメント by くまがい — 2008/4/28 月曜日 @ 23:34:32
GPSアルゴスは、測位精度もかなり良いので、【雲取山の山頂にテレメを置いてアルゴスに追わせところ、「所沢」を指定したそうで・】というのは、ちょっと信じられません
日本の上空は10数個の衛星が回っていますので、3つの衛星で取ることができれば、現在は15mくらいの精度で測位情報は取得できるはずです。かなり前でも良いものでは100mの精度でしたから、数10kmも離れてしまったというのは、誤差と言うよりも解析ミスではないかとも考えられますね
コメント by 風 — 2008/4/30 水曜日 @ 0:35:41
「アルゴスが少々気にはなりますが・・・」
「GPSアルゴスは、測位精度もかなり良いので・・・」
どっちなんだよ? 変なの・・・。
コメント by くまがい — 2008/4/30 水曜日 @ 6:31:56
きちんとしたカメラ技術をもっていないと、写真結果などを分析解析しながら理解することはできません。
GPSなどの結果だけで数頭の行動域がわかったところで、ツキノワグマすべてが「わかってしまった」というような誤解も生じています。
「Nシステム」や「オービス」、巷間あふれている「監視カメラ」による成果は思いのほか現代社会の盲点を的確に見せてくれるもの、です。
これと同じように、動物捕獲檻と同数の「監視カメラ」があれば、相当数のツキノワグマをはじめとする野生動物の個体把握につながるハズです。
ボクは、それを信じていますが、カメラ技術力のない人たちには、それすらも理解できていないのが現状だと思っています。
身銭を切ってまで、無人カメラを設置するような人も現代の日本にはいないので、こういうところからの人間観察も面白いものです。
コメント by gaku — 2008/5/5 月曜日 @ 13:54:39
一時期、年度末になると「アルゴス衛星を使う」と言えば、予算が通りやすいという時期があったりして・・・そもそも野生動物調査が年度末の予算消化に使われているということを、調査する側もいまだに引きずって「たかって」いるのが現実でしょう。
gaku先生の「無人カメラ」の効用を、調査する側が理解して、行政のイニシアティブを取っていけるようになればと願います。
及ばずながら私は、出版物でそのことを書くようにしておりますが。
コメント by くまがい — 2008/5/6 火曜日 @ 0:00:14