なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2008/3/7 金曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマの学習放獣を考える ? 密殺されるツキノワグマ

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中央アルプス山麓の人家に近い林のなかに、サル捕獲用の檻がある。
檻の大きさは、高さ2m、幅2m、奥行き3mほど。
もう、かれこれ10年くらい前から、この檻は稼動中である。
そして、ここにはとにかく、いろんな動物が掛かるのである。
ハクビシン、タヌキ、サル、イノシシ、クマ…
設置者の名前も住所も檻に明記されているので、誰が管理をしているのかはわかる。
しかし、管理者とは面識もないし、話す必要もないので、ボクはこの檻をときどき訪ねては何が入っているのか、また最近何があったのかを確認している。
だから、もちろん檻の設置者にはボクが何をしているのかまでは、気づかれてない、と思う。

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2007年8月某日の昼ころ。
ボクはこの檻を見回って異変のあったことに気づいた。
檻の奥には血痕がべっとりと沈み、入り口の鉄骨にはツキノワグマを引きずったときについた体毛が数十本付着していたからだ。
その日は暑く気温も高かったから、血痕の鮮度から推しても6時間以内の出来事だったにちがいない。

この檻にまちがいなく昨夜ツキノワグマが入り、朝には殺されたのである。
これまでのウワサなどを総合してみても、2005、2006年も、かなりの数のツキノワグマがこの檻には入っていた。
なので、こうしてボクは異変を探るために定期的にこの檻を見回っているのだが、サルの捕獲檻にツキノワグマが入ったのだからこれは「錯誤捕獲」である。
しかし、有無をいわさずに、このクマは「殺され」ている。

野生動物の有害駆除としての許可は、長野県では市町村長の判断で下りる。
しかし、ツキノワグマだけは、特別に緊急を要するようなことでないかぎり、市町村長サイドでの許可は下りないことになっている。
だが、こうして、サル捕獲用の檻にツキノワグマがまちがって入ってしまっても、現場ではあっさりと殺されているのだから、厳密にいえばこれは「密猟」であろう。

まあ、これ以上はボクも難しいことは言えないが、地域住民には、ツキノワグマは数の少ない動物ではなくてかなりたくさん生息していることが理解されつつある。
このため、「学習放獣」として耳タグをつけて放たれても、それが各地の檻に再び入ることも、檻設置者たちには承知済みのことなのである。
だから、耳タグを2つも付けていれば、それは現場判断で「葬られる」可能性を否定できない。もはや、そのことは地域行政の職員たちも知っていることであり、住民側に立てば黙認せざるをえない事情もあるのかもしれない。

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これを、良いとも悪いとも、ボクには言えない。
言えることは、ボクの自動撮影カメラの数よりも、イノシシなどの捕獲檻のほうが圧倒的に多いことであろう。ボクのカメラが1だとすれば、捕獲檻は20倍以上の数であるからだ。
そのすべてにツキノワグマが錯誤捕獲されることはないとしても、一つの檻に繰り返し何頭もが立て続けに入ることだってある。
これは裏を返せば、相当数のツキノワグマが周辺に生息していなければこのような事態にはならない、ということである。そのことをすでに地域住民が知っているということは、ツキノワグマの実際の個体数把握が研究者サイドではかなり後手にまわっているといってもいい、からだ。

ここで一番大切なことは、密猟云々よりも、まずはツキノワグマが何頭いて、何頭まで減れば絶滅への道を歩むのか、何頭以上なら余剰捕獲をしていいものなのかを早く出すことである。
それができないまま「保護」だけを唱えることは、地域住民の気持ちを逆なですることでもあり、ツキノワグマにとっても不幸なことだからである。
誤解をされても困るが、ボクは密猟を支持しているのではない。
全国でツキノワグマに関心を示している方がいるとすれば、一人でも多くの人がもっと詳しく独自調査をしてほしいと思っているからだ。
そのためにもボクは、一台でも多くの無人カメラを設置して、物言わぬツキノワグマの密かな動きを独自に探っている、だけなのである。

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写真1:サル用の捕獲檻。
写真2:リンゴにべっとりと鮮血があったので、異変に気づいた。
写真3:土に深く溜まった鮮血はまだ乾いてはいなかった。
写真4:重いクマを引きずったときに付いた体毛を発見して、何が行われたかがすぐに分かった。

(from/ gaku )

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3 Comments

  1. 生々しい記録ですね。
    こうした密殺の裏に何があるのか、人もまた黙していますから、なんとも分かりませんが、殺す側の論理も、機会があれば、聞いてみたいものです。
    密殺する側も、違法行為を承知で行なっているわけですから、相当な理由があるものと推測します。

    Comment by 小坊主 — 2008/3/13 木曜日 @ 15:27:29

  2. 全く憤慨する出来事です。 確かに現場に住む人と小生のごとく都会に住むものとは温度差があることわかりますが、何の権利があってクマを簡単に殺すのか理解できず、哀れなやつらとしか思われぬ。 クマとて天地創造物の一つです、人間とは同等の権利を持ってこの地球に存在してます。 このように密漁まがいのやからは刑事事件として扱い断固たる処罰をすべき、例えばその者の家族、親族一同での連帯責任を問うべき。
    満座の前で、引き回し恥をさらけ出させるのもよし。
    いずれにせよ厳密に取り締まりこのような事が無いように監視すべき

    Comment by 石井 — 2008/6/4 水曜日 @ 14:14:45

  3. >ここで一番大切なことは、密猟云々よりも、まずはツキノワグマが何頭いて、何頭まで減れば絶滅への道を歩むのか、何頭以上なら余剰捕獲をしていいものなのかを早く出すことである。
     同感です。いわゆる「研究者」にはそれができないのでしょうか。
     8月の捕獲であってみれば「錯誤」だと思いますが、それほどに猿害が増えているのでしょうか? 猿檻だとクマの力なら破れるということはないのでしょうか。また、素人であれば、檻から出すのも危険で、それで殺してしまうのでしょうか。イノシシ罠にせよ、猿罠にせよ、とばっちりを食うクマがかわいそうです。エサには何を使ってるのでしょうか。また、クマがそうした里に近い罠に近づくようになってしまったことも不幸な徴候だと思います。

    Comment by gugu — 2008/6/27 金曜日 @ 17:35:25

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