ツキノワグマの学習放獣を考える ② 標識をつけた熊たち
右耳に赤い丸タグ、左耳には黄色の長タグをつけたこの雌グマは、2シーズンにわたって追跡することができた。
2006年の夏に、このクマは設置してある自動撮影カメラにはじめて写された。
その後も冬までに何回か記録されつづけた。母グマのおおよその体重は、70-90kg。
当初から、子グマを1頭連れていた。
この母子には、自動撮影カメラ以外でも、近くの道路付近で何回か目視することもできた。
両耳にタグをつけているということは、少なくも2度は捕獲された経験があるのだろう。そんなツキノワグマだったが、夜間の道路付近で出会っても、すっとんで逃げるようなことはしなかった。
15mほどの距離でボクと出会っても、車の中からサーチライトで照らすのだが、その場にまずは立ち止まってしばらくうろたえるような動作をする。そのあと、子グマが暗がりにゆっくりゆっくり進むと、それを確認するかのようにしてから、母グマも闇に消えていくのだった。その動きは、じつに落ち着き払った態度である。
これが、人間に捕まり学習放獣をされているツキノワグマなのだろうかと不思議に思うくらい、堂々としていた。いや、虚勢を張っているようにも見えたから、夜間でもあることだし、どんな行動に出るかもわからないのでボクは車の中からの観察だけにとどめていた。
2007年にも、この母子には出会った。
新たに300mほど離れた別の場所に設置したカメラにも、ひんぱんに記録されていった。
こうした記録から、このツキノワグマ母子は、ボクの設置してあるカメラ周辺地域に定住していることがはっきりした。
しかし、この母子は、2007年の7月31日を最後に記録がぱったりと途絶えてしまったのである。
恐らく、どこかのイノシシ檻に入って捕殺されたのであろう。
それは、2シーズンにわたって追ってきたクマであり、母子の態度や習性からみても、捕獲経験が何回かあろうとも「懲りてはいない」から、次の檻にも平気で入ってしまうだろうと予測できていたからだ。そのくら大胆で、人を見ても逃げないクマだったから、車の通る道路や人家付近に出現することもいとわない。これでは一緒に歩き回る子グマの将来のためにもよくないことだと、ボクは思っていた。
だから、忽然と消えたことで、ある意味ではボクも安堵しているのであるが、若干の寂しさも禁じえない。
写真上:人の散策する遊歩道にも、この母子は頻繁に出現してきていた。
写真下:この日を最後に、フィールドから消息が途絶えてしまった。
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gakuさんのカメラの、いわばお馴染みさんだったので、興味を持って見ていましたが、そうですか、消息不明になりましたか。
耳タグ二枚は、イエローカード二枚、三度目には退場処分になるという、密かなルールがあるのかも知れませんね。
コメント by 小坊主 — 2008/3/3 月曜日 @ 10:39:04
>耳タグ二枚は、イエローカード二枚、三度目には退場処分になるという、密かなルールがあるのかも知れませんね。
いや、その通りなんですよ。
イエローカード1枚でも、即退場。
イエローカードなしでも、退場。
現場では、そういう風潮といいましょうか。すでに、それが暗黙の了解になっています。
裏を返せば、現場のほうが、そのくらいツキノワグマが増えていることを知っているのですよ。
この続きを書かなければならないのですが、チョウ多忙な日々がつづきまして。
コメント by gaku — 2008/3/4 火曜日 @ 21:00:01
学生の頃クマ調査に関わっていました。
耳タグの数は、捕獲回数を表すものではないと思います。もしそうであれば、3回捕まった個体は3個付けられていることになりますね(それほどチャンスをもらえる可能性は低いようですが)。
放獣後に野外で観察した際にも個体識別できるように耳タグを付けますが、放獣個体数が増えてくれば、色の組み合わせと左右の耳を使い分けてもすぐに限界がきます。そこで2つのタグを使い、組み合わせ数を増やしているはずです。
私が知っている北海道の事例では、初回捕獲時に2つ耳タグを付けており、その後何回再捕獲されても、耳タグについては異常がなければそのままでした。
コメント by キノコハンター — 2008/6/26 木曜日 @ 11:28:31
以前大学のシンポジウムでお世話になった者ですが、宮崎さんの「学習放獣無効論」が話題になっているのを知り拝見しに来ました。
1.>それは、2シーズンにわたって追ってきたクマであり、母子の態度や習性からみても、捕獲経験が何回かあろうとも「懲りてはいない」から、次の檻にも平気で入ってしまうだろうと予測できていたからだ。そのくら大胆で、人を見ても逃げないクマだったから、車の通る道路や人家付近に出現することもいとわない。
2.>これでは一緒に歩き回る子グマの将来のためにもよくないことだと、ボクは思っていた。
1.の事実を知りませんでした。とすると、懲らしめて放す、いわゆる「学習放獣」の効果も疑わしいということになりますね。
また人を見ても逃げないという習性がついてしまうのはよくない気がします。母グマから行動を学ぶ子グマにもその習性が身につくわけでしょうから、危険が累積しそうです。2.のご意見にも賛成です。
コメント by gugu — 2008/6/27 金曜日 @ 17:18:58
捕獲後放獣された全ての個体が学習放獣されたとは限らないことには注意が必要と思います。出没地点から遠く離れた場所に放すだけでいわゆる「お仕置き」をしない「移動放獣」もありますし、特に人間とトラブルを起こしていない個体の行動を追跡するために捕獲標識される場合もあるからです。
この母グマが「学習放獣」されたにもかかわらず懲りていない個体だった可能性は高いと思います。しかし、もともと万能な手法ではないので、全てのクマが望むとおり学習してくれる訳ではなく、魅力的な餌などの条件によっては効果がない場合もあると思います。ある程度の割合が人間や農地への接近を躊躇するようになれば十分有効だと思いますし、効果がなかった個体でも、それらが人に対して攻撃的になったりすることがなければ大きなマイナスではないと思います。
コメント by キノコハンター — 2008/6/27 金曜日 @ 18:18:31
捕獲して、放獣していく理由はともかく、学習放獣であろうがそうでなかろうが、
タグを何個つけようがつけまいが、
そのごの追跡技術が確立されてない限り、放獣を語るのには我田引水的自己満足にしかすぎないと思っています。
ボクは、発表してないだけですが、まだまだいろんなタグ個体がカメラには記録されております。
そうした結果から、申し上げているにすぎません。
コメント by gaku — 2008/6/28 土曜日 @ 22:19:22