なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2012/7/18 水曜日   ツキノワグマ日記

ヘリコプターで追い出されてきた熊


(夜の9時34分に撮影された別個体、これには月ノ輪がある)

一週間ほど取材に出かけていて、昨夜遅くに帰宅した。
そして、朝になったら、知人らから次々と電話がかかってきた。

「gakuさんよぅ、昨日ったら、ウチのすぐ下に熊が出てきたぜぃ
息子が15mほどのところで、目と目が合っちゃったらしい
で、俺を呼ぼうと大きな声をだしたら、熊はあわてて元きた山に逃げていったんだって、よ
俺は、とうとう熊を見そこなってしまったけれど、かなり大きかったらしいぜ
そんなのが、堂々と目の前の道路を渡ろうとしてたんだから、なぁー」

時間は、午後の2時40分。
観光地のど真ん中なので、よくぞ観光客に見つからなかったものだ、と感心する。
これが、もし、観光客にでも見つかっていたら大騒ぎになって、テレビニュースになること間違いなし、だった。

こんなハナシを聴いたのか、別の知人からも同じ熊の情報が次々とあった。
また、さらには、フェイスブックで目撃した本人からの情報も届けられた。
持つべき者は友だなぁー、っと思った瞬間だった。
同じ熊の情報が、次々ともたらされることは、いかに信憑性に富んでいるかということ、だからである。

そのあと、目撃した息子から熊の挙動の一部始終を聴くことができた。
息子のハナシによれば、ツキノワグマというけれど、胸にはまったく「月ノ輪」が見られなくて真っ黒だった、ということだった。
これは、「ミナグロ」という珍しい個体でときどきいるらしいが、オイラはまだ出会ったことがない。

ちょうど、この日は近所であった行方不明者の捜索をしているときだったらしい。
大勢の消防団員と共に、県警のヘリコプターも出動していて、かなり低空で林の上空を捜索していた、そうだ。
その捜索範囲内には、かねてから数頭のツキノワグマの生息が確認されている。
そのことを知っているから、山菜採りなどで毎日のように山へ入っている知人たちも、熊の存在には親しみをもっていた。

「あのクマは大丈夫、だ
俺たちが山に入っても、そっと身を隠して、穏便に行動しているヤツだ
だども、昨日のヘリコの動きは尋常じゃあなかった、ぜ
低空であんなにバリバリやられては、いくら平静を保っていた熊でも、やはり不安だっただろう…」

ヘリコプターであぶりだされてきた熊が観光客にでも見つかってそれが原因で「射殺」されたら、やっぱり可哀想だ。
だから、このことは、みんなで「ナイショ」にしておこう。
ということで、このツキノワグマ目撃情報はそのまんま、マスコミにも上らずに仲間内での笑い話となっていた。


(クマは、この赤点まできて道路を横切ろうとしていたらしい。赤点の向こうに見える塀は、奥のホテルの露天風呂。観光客も車もざわざわしているすぐ横でツキノワグマが暮らしているのが普通の風景、なのだ)

そんな話題をオイラに伝えたくて、取材から帰ってくるのをみんなが待ちわびていてくれたらしい。
こういう仲間がいるだけで、オイラには確かな情報が入ってくるから嬉しい。
そして、一週間ぶりに無人撮影ロボットカメラを点検してみれば、昨夜の9時34分にツキノワグマが撮影されていた。
目撃地から800mほどの距離のカメラだが、このクマにはしっかり「月ノ輪」があった。
ということは、明らかに別個体であって、仲間内の誰もが知らない別熊の存在をカメラは暴き出していた、のである。
と、いうことは、この熊もたぶんヘリコプターに狼狽しただろうが、観光地で人が集まる場所でない方向に逃げたのだろう。
だから、だれにも目撃されなかった、のである。

こうしたオイラが発見した事実は、仲間にも伝えている。
すると、仲間たちはニンマリ笑いながら、
「熊なんて会えるようでなかなか出会えるもんじゃあない。あいつらはらちゃんと人間を観察しているからなぁー
どこの山野にも熊はいるモンだし、俺たちもそうやって付き合ってきているんだから、な」

こうやって、オイラの周りの連中はしっかり自然との付き合い方を身体で知っている者ばかり、である。
だから、山野に分け入るにもまったく恐れをなしていないが、畏敬はもっている。
ところが、信州の自然の表面ツラだけを見て観光にやってくるようなヒトたちには、この「畏敬」というものがない。
ツキノワグマやマムシ、スズメバチを、だから異様に怖がって結果的に事故にもつながる。
そして、事故を行政やヒトのせいにする。
豊かな自然には、クマもマムシもスズメバチもみんなセットになっているのが当たり前なのに、どうも日本人はその基本的なことがわかっていない。


(この角度なら白い月ノ輪が見えるハズなのに、このクマにはそれがない。ひょっとしたら、ミナグロの正体はコレかもしれない。見よ、熊はツメを大切にしているからこのような歩き方をするのが普通、なのである)

さて、そこで宿題ができてしまった。
「ミナグロ」という熊の存在を知った以上は、なんとしても撮影しなければならない。
月ノ輪のないこの真っ黒なクマを撮影して、ぜひ、仲間内にみせてあげたいからだ。

(from/ gaku )

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6 Comments

  1. マタミールでなくてツキミールを開発するのでしょうか?

    Comment by 沢畑 — 2012/7/20 金曜日 @ 22:00:49

  2. こんばんは。
    私の先輩が以前本州中部の山地で獲ったヤツはミナグロでしたよ。
    たしか、2頭ぐらい有ったと思います。
    東北のマタギの話ではミナグロは縁起が悪い、と宮崎さんもご存知のある小説ではなっていましたが、私の先輩は山の神に魂を売った(愛されてる?)ような猟師なので、その後もなんら問題無く活躍してます。
    多分宮崎さんの活動エリアにもその血筋のヤツが生きていると思うのですが‥。
    遺伝は関係無いですかね?

    Comment by いち猟師 — 2012/7/20 金曜日 @ 23:32:40

  3. ブログ表題とは、すこしずれてしまいますが。

    昨日、JR長野駅のホームにクマが、突然現れたそうですね。市内のあちこちでも目撃されたとありました。
    このクマも、どのような理由があって、駅になんてやってきたのでしょうね?

    Comment by プロキオン — 2012/10/6 土曜日 @ 9:56:38

  4. 時々HPみさせてもらっいます。
    「ミナグロ」といえば、本州には月の輪熊しかいないはずですが、
    青森・秋田の方に月の輪がない羆か近縁種のクマがいる、と本で
    読んだことがあります。マタギからの聞き取りだったかも知れません。
     ところで、私の体験なんですが、1980年代、渓流釣りで丹沢のある沢
    を上り詰め、源流の砂地に大きな獣の足跡を見つけました。クマの足跡
    だったと思いますが、直ぐ近くに潜んで私の存在を知っていたでしょう。
     その後、一週間ほどして私が遡行した沢筋でクマが捕れた、とのニュース
    が紙面に載っていました。その体重が何と400㌔以上。その記事はスクラップしましたが、月の輪の存在はその写真付きの記事で確認できませんでした
    が、その巨体は違う種を暗示しているのでしょうか?
    狩猟期間を外れていたのですが、登校路にクマが出たということで、有害鳥獣の申請をして捕まえたということでした。

    Comment by タン — 2013/3/8 金曜日 @ 11:26:58

  5. 「ミナグロ」のことだけど、長野県伊那市にある「グリーンファーム」でいま飼育されているツキノワグマは完全なる「ミナグロ」です。
    すぐ裏山の中央アルプスで捕獲されたものだと、説明文が付いています。
    少なからず、中央アルプスにも「ミナグロ」はいるみたいですね。
    で、これまでたくさんのツキノワグマを撮影して「月ノ輪」をみてきましたが、個体によって変異もすごく多いです。
    また、顎の下にも小さな白い部分のあるものもいて、これも変異が多いですので、このような「白斑」は微妙に遺伝していくところがありますから、相当に複雑にDNAが絡み合っていることが予測されます。

    こうして、「月ノ輪」の変異を見ているだけでも、まさに、これからの遺伝子解析研究に多いに期待したいものがあります。

    Comment by gaku — 2013/3/12 火曜日 @ 14:32:50

  6. タンさん、
    丹沢の400kg熊は、「ヒグマ」だったのでしょうかね?
    こういうところにこそ、きちんとした専門家が招かれてしっかり答えをだしてもらいたいものですね。
    その記事も写真もボクは見たことありませんから、なんともいえませんが。どこかで飼育されていたのが、逃げ出していたとも限りませんし。
    いずれにしましても、スクラップがあるのでしたら複写でもして見せてほしいものです。

    また、東北に「ヒグマ」が居るのではないかと懸念されているようなカキコミは、ボクも少し気になっているところがあります。
    昨年あった秋田県での飼育ヒグマが人を殺した事件は痛ましいモノですが、ひょっとしたら公表されていないだけであのような施設から過去にも逃げ出していた可能性も捨てきれません。
    また、青函トンネルが開通したあとに青森県の竜飛岬で「キタキツネ」が目撃されていますが、あのトンネルを自分で歩いてきた可能性もなきにしもあらず、と考えられます。
    なので、ヒグマだって…ひょっとするとトンネルを歩いてきているかも…?

    とにかく、野生動物は私たち人間が考える通りの行動をしませんから、そういう動きもあるかもしれない、ということも絶えず視野に入れていくことも大切だと思います。
    これなどは、青函トンネルを管理しているJRが監視カメラでそうしたことも調査していなければならないと思うのですが。。
    そういうことも含めて、全国それぞれの地域に住まわれている人たちがいろんな方法で地域を調べていくことって大切なんですが、どうもそういった「気づき」も現代社会にないのが残念なことです。

    Comment by gaku — 2013/3/12 火曜日 @ 14:52:02

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