なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2012/7/6 金曜日   ツキノワグマ日記

夜の森でツキノワグマの威嚇に遭うと…

夜のツキノワグマを撮影するには、車の中で待機するのがいちばん安全であろう。
ブラインドテントでは、あまりにも危険すぎる。
このため、オイラは車をブラインド代わりにすることを基本としている。

ツキノワグマは、ご存知のとおり真っ黒だ。
真っ暗闇で、真っ黒なツキノワグマを見つけることは、できない。
しかも、夜間ならツキノワグマのほうが人間より視力などでは圧倒的に有利だ。
それでも、オイラはツキノワグマの観察をしてみたい。
これまでの経験では、イマドキのツキノワグマは車というものをまったく警戒しないから、ある意味では車をシェルターに使えるのは好都合だ。

こうして、車をシェルターにしながらツキノワグマを待つわけであるが、慣れてくると真っ暗闇でもオイラには「殺気」でクマの存在がわかる。
暗闇で何も見えないが、確かに闇のなかに生きものがいる、という感覚がするからだ。
クマは、あれだけ大きな体をしているが、人間の存在を分かっているときには、まったく足音を立てずに忍び足で移動してくる。
だから、どこにいるかは分からないが、森のなかには確かに「いる」という気配が「気」として伝わってくるからだ。

すると、オイラからも殺気が出るから、クマにもそれが分かる。
なので、殺気と殺気がぶつかりあって、そのうちにすごいことになるのである。
クマがしびれを切らして、「ブフォー」っと、威嚇してくるからだ。
この声は、喉からなのか鼻からなのかはよく分からないが、水気をおびた「鼻汁」が飛んでくるような強烈な「息」、である。
まあ、深夜の真っ暗闇の森にたったひとりでいて、ツキノワグマのこの威嚇に遭えば、普通の人には耐えられないだろう。
それも、5メートルほどの位置からの威嚇声、だからである。

またさらに、これとは別な威嚇では、生木を折る音であろう。
まったくの静寂な森のなかで、いきなり直径3~4センチくらいの生木を「バキーン」と折ってくる、のである。
これも、いきなりだから、半端でない驚きがある。
そして、ときには、二つの威嚇をセットでやってくるクマもいる。

それでもこちらが動じないでいると、殺気がすぅーっと消えていくこともあるから、ここで、クマが立ち去ったことを知る。
また、これらの威嚇を経てカメラの前に出てきてくれるクマは、どんなにストロボを焚いても平気なことが多いものである。
こうした体験を積み重ねていくと、オイラは次のことを考えてしまう。
とにかく、真っ暗闇の真っ黒なツキノワグマを、クマより先に自分の目でなんとか確認してしまおう、と知恵を絞るからだ。
そして、あらゆるメカトロニクスの可能性を自分の頭で模索する。

たとえば、特殊センサーを開発して、その信号を車まで運ぶのである。
こうすれば、クマの接近を確実に知ることができる。
さらには、その信号を受けて、専用の赤外線カメラを自作してあるからモニターもできる。
こうしたアイデアも、これまでオイラはあらゆる野生動物といろんな付き合い方をしてきているから、成功経験に基づいた特殊技術を展開できるからである。
こんなことは、誰も教えてくれないしヒントを出せる人もいないのだから、自分の頭ですべてをやるしかない。
まさにこれは経験から出てくる発想力であって、観察や撮影だけでなく我が身を守る術にもつながっていくから、自然界全体をはかる教科書は自分でつくるしかない、とつくづく感じる。

こういえるのも、車での仮眠中に、深夜ツキノワグマがフロントガラスからオイラの寝姿を確認にきたヤツがいたからだ。
クマが立ち上がって車のフェンダーに手をかけた振動でオイラは目覚めた。
その直後に、フロントガラス越しの夜間の白けた空に、ツキノワグマのシルエットとなった大きな頭を50cmほどのところで見てしまった。
このような経験をしたから、野生のツキノワグマが予想外の行動に出てくることを改めて悟った次第である。
だから、ウインドーの開閉具合もまさに生命を守る「間隔」と「感覚」が要る、と思った。
以来、ツキノワグマのような大型野生動物と付き合うには、あらゆる複眼発想のできるセンスで迫らないと「命取り」になる、と悟っている。

写真:はじめにUPした写真は、ツキノワグマのことをしっかりわかっていないと理解できない写真だというクレームがあり、差し替えました。プロ的にみればすごく高度で自信作だと思っていたけれど、分からないヒトが多すぎたのは残念。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

10 Comments

  1. >gakuさんへ

    「はじめにUPした写真は、ツキノワグマのことをしっかりわかっていないと理解できない写真だというクレームがあり、差し替えました」

    この箇所に書かれていることの意味が、理解できないのですが、写っているツキノワグマの行動が特殊なもの、特殊な行動であって、一般的なものではないという意味なのでしょうか?
    それとも、誤解を招きかねない行動をとっていたということなのでしょうか?
    タイトルが「夜の森でツキノワグマの威嚇に遭うと」ですから、クマの危険性を強調するような恐れがあったということなのでしょうか?  

    Comment by プロキオン — 2012/7/8 日曜日 @ 14:45:44

  2. こんばんは。
    プロキオンさんの尻馬に乗るわけではないのですが、はじめにUPした写真を見てないので、どの様な写真だったのか見てみたいです。
    そっちの方が真実を語ってる気がするので。
    検討よろしくお願いします。

    Comment by いち猟師 — 2012/7/8 日曜日 @ 19:22:46

  3. 漆黒の中、ツキノワグマの眼だけを浮かび上がらせた写真でした。「しっかりわかっていないと理解できない写真・・・」というより、闇に生きるツキノワグマの本質を捉えた秀逸な作品だと感じましたが・・・フレーミングにしても然り。写真集のトップに持ってきても
    いいくらい。

    Comment by ミサ郎 — 2012/7/8 日曜日 @ 22:56:15

  4. >ミサ郎さんへ

    解説ありがとうございました。その画像、私も見てみたかったです。
    ブログでは、クレームがあって差し替えたとのことですので、次の写真集なり、見ることができる機会に期待をつないでみます。

    Comment by プロキオン — 2012/7/9 月曜日 @ 11:11:22

  5. なるほど、その写真であれば見覚えがあるような気がします。
    プロキオンさん、解説ありがとうございました。

    Comment by いち猟師 — 2012/7/9 月曜日 @ 21:37:19

  6. 「Facebook」なら、タイムラインでいまでも見れますよ。

    Comment by gaku — 2012/7/9 月曜日 @ 22:12:14

  7. 僕も先日ヒグマに威嚇されましたが、同じような感じでフゴフゴと、鼻息のような、荒々しい息を吐きながら、動きまわって、ガサガサ音を立てて、ヤブの中で姿は見えませんでしたが、僕は車の中に居ましたが、背筋が寒くなりました。

    僕も、最初の写真、見逃してしまいました・・・

    Comment by てっちゃん — 2012/7/9 月曜日 @ 23:09:21

  8. Facebockですか、確認してみます。
    それから、ミサ朗さん、解説ありがとうございました。

    Comment by いち猟師 — 2012/7/10 火曜日 @ 0:06:46

  9. 臨場感ある文章でワクワクしました。
    ヒグマが威嚇するときは地面バシーンバシーンと叩くと本で読んだことがあります。
    ツキノワグマでも同様に行動するのでしょうか?

    Comment by kana — 2012/7/17 火曜日 @ 21:54:05

  10. 怖い写真ですね

    Comment by するめ — 2013/3/23 土曜日 @ 8:44:09

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