なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2012/6/19 火曜日   ツキノワグマ日記

学習するクマ学習しないクマ

2009年の夏から、左耳に緑色のタグをつけたツキノワグマが2頭出現するようになった。
タグのナンバーは、42番と97番。
どちらも、メスである。
大きさも、3~4歳になろうとしている。

42番は、1シーズンで追跡できなくなった。
忽然と消えてしまった、のである。
このような消えかたは、たぶん、どこかの檻に掛かって殺処分されたことがうかがえる。
97番は、その後3年間にわたってしっかり追跡できて、今年で4年目になった。

これらのクマたちが行動する周辺には、クマ捕獲専用ドラムカン檻が3~4個仕掛けられている。また、イノシシ捕獲用に5~6個の檻もある。
これらの檻に、毎年ツキノワグマも相当数が掛かっている。
だから、42番と97番もやがてはどこかの檻で捕獲されてしまうのではないか、とオイラは心配していた。
42番はそうして捕獲されてしまったのだろうが、97番だけは3年間まったく捕獲されずに元気、なのである。

97番は、いちどどこかで捕獲されて「97番」という耳タグをつけられて放獣された。
そのときの忌まわしい記憶を学習し、その後どうやら捕獲檻にはいっさい近づかないのだろう。
それがために、美味しそうな餌がどこの檻にあっても、釣られずに3年間も生き延びて4年目に突入したのである。
賢いといえば賢い、ツキノワグマといえる。
ところが、捕獲されても何回でも檻に入ってしまう学習能力のないクマもいるから同じツキノワグマでもいろんなタイプのいることがわかる。


(97番は、このお腹をみても、一度も出産してないことがわかる)

この97番は、ここ3年間いちども子供を産んだことがない。
もちろん、子供を連れているところを見たこともなければ、出産経験のないお腹をしていることもマタミールでの撮影で確認済みである。
出産適齢期になっているのに、このクマはまったく子供を産まないのだから不思議だ。
こういうメスも自然界にはいる、らしい。

そして、今年は2012年。
97番も4年目の観察となるが、最近はシカ捕獲に直径20cmもある「くくり罠」が多用されるようになってきた。
くくり罠は巧妙に多数が仕掛けられているから、97番も檻は見破れても「くくり罠」で捕獲されてしまう確率は格段にあがってきた。
なので、97番もいつまで追跡できるか、これだけは賭である。
無人撮影ロボットカメラに記録されなくなったその時点で、97番は捕殺されたと判断していい、と考えている。

と、まあ、このように耳タグの番号が無人カメラで読めるということは、ツキノワグマの個体追跡調査には格段の情報力が集まるということである。
耳タグは、行政がやっているのかNPO法人なのか定かではないが、学習放獣といってツキノワグマをただ放しっぱなしで糸の切れた凧のような状態にしておくのはもったいない、と思う。
学習放獣という言葉が生まれた時点で、その後の追跡技術の確立ができていれば、今頃はもっとツキノワグマの生活史の実情に迫ることができていたことだろう。


(これは、捕獲経験のあることを示すだけの家畜用のタグをつけている)


(牛の耳タグは字も形も大きいが、クマ用に新たに開発することは可能だ)

2004~2006年のツキノワグマ大量出没からかなりの年月が経っているというのに、フィールド観察技術への前向き努力がまったくなされてこなかったような気がする。
カメラ技術とメカニカルな情報さえもっていれば、「97番」という5cmほどの耳タグでも番号の観察把握ができるからである。
こうした発想力も出てこないということは、カメラのもつ記録性と解像力というものをどうもまだ社会は理解できていないからだ、と思う。
この技術確立がきっちりできていれば、耳タグだって字をもう少し大きくしたり形を工夫したりしてツキノワグマ専用のものを開発できるハズである。
そうすれば、さらに個体識別把握の効率もあがることだろう。
「黙して語らない自然界」を探るには、とにかくセオリー的な教科書なんてないのだから、アイデアという発想力がもっとも大切でそれに伴う技術力と分析力が求められるからである。

(from/ gaku )

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2 Comments

  1. クマに県境なんて、関係ないでしょうから、どうせタグを付けるなら、野鳥のバンディングみたいに、全国で共通できる番号にしないといけないのでしょうね?

    それか、アサギマダラの、アサギネットみたいに、どこどこで捕獲したクマには、何番のタグを付けたから、目撃情報を求める・・・みたいな、全国で情報を共有できたら、良いのでしょうね?

    Comment by てっちゃん — 2012/6/21 木曜日 @ 12:58:30

  2. タグ付けした本家本元より、データ量の多さ、データ解析の正確さ・・・さすがです!

    Comment by もっち — 2012/6/21 木曜日 @ 15:48:32

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