なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2012/3/22 木曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマに「孤立群」があるというけれど

過日、ツキノワグマの研究者と話をした。
そのときにオイラは、中国地方や紀伊半島のツキノワグマは決して「孤立」してはいない、と確信をもって言った。
すると、その研究者は「すでにDNAで答えがでている」と語気を強めて反論してきた。
その場は、受け流しておいたが、オイラは「孤立群」として決めつけてしまうのには大いに疑問をもっている。

それは、どの地にも実際に足を踏み入れて見てきているからである。
現地に生息しているツキノワグマそのものよりも、そこに通じる山地がどのような環境になっているのかをオイラなりに目撃して考察しているからだ。
孤立群といわれている山地につながる山々は、極端なはなし長野県の山地にまで連綿とつながっていることを忘れてはならないからである。
しかも、ツキノワグマは中国山地でも紀伊半島でも、そこに至るまでの山地には連続的に確実に多数が生息していて、交流があるからである。
それなのに、高速道路や河川や村落…などによって、ツキノワグマの行動域が「分断」されていると決めつけて考えが固まってしまっていることのほうがおかしいのではないか。

たとえば、オイラのところのツキノワグマはオスで50~100hkmの行動エリアをもっているとする。
それが、中央アルプスをまたいで木曽谷へも行っているものがいる。
その木曽谷で交尾をして子供を産ませていることは十分に考えられる。
その木曽谷は岐阜県にもつながっているから、木曽谷で生まれたオスが行動エリアを岐阜県側にももっているハズだ。
その岐阜県のツキノワグマは、福井県にもつながっているし、福井県から滋賀県、京都府、兵庫県、岡山県、鳥取県、島根県、広島県、山口県へと、DNAは確実に分配されていくハズである。
長野県のツキノワグマがいきなり中国山地まで行くことはないにしても、50年、100年あるいはもっと時間をかけて長野県のDNAがこれらの地域を少しずつゆっくり乗り継いで行っている可能性は十分に考えられる。
紀伊半島だって、岐阜、滋賀県境の養老山から鈴鹿山系を経由して山地はつながっている。

これまでのオイラの経験では、どの地域にも予想以上にツキノワグマは生息しているものである。
そうしてたくさん生息していることを確認できる技術が各地にはないだけのことであって、「クマクール」などをつかって丁寧に調査をすれば思いのほかツキノワグマをあぶり出すことができるからだ。
これら、各地の山容をオイラは実際に自分の目で見て確かめたから、自分の経験にもとずいて考察すれば、ツキノワグマの動きがほんとうによく見えてきてしまうのである。

こう考えるのも、アルビノとなったタヌキが大量発生してから、消滅し、やがて復活するまでの時間をオイラは見ているからだ。
白いタヌキが復活するまでに、約30年の歳月がかかった。
この30年間に、直線にして50kmほどの距離を白いタヌキが少しずつ出現移動してきている事実を目撃してきたから、野生動物のDNAはこのようにして動いていくのだということを身をもって知った。
タヌキで50kmほどを30年かかって移動するのだから、ツキノワグマはもう少し時間がかかるのかも知れないし、いや、もう少し早いのかもしれない。

オイラは、タヌキのDNAを実際に調べたわけではないが、アルビノという目立つ個体によってその時間的移動変化を連続的に知ることはできた。
しかし、身近なところにいるタヌキひとつにしても、このような調査はまったくなされていないのが実情だ。
今日行われているDNA研究がほんとうに確実なものなのかは、オイラにはまだよくわからない。
DNAだけを鑑定の材料として、すべてを信じて「決定」づけてしまうことにも疑問を感じている。
また、算定方法をまちがえれば、どのようにでも転んでしまいそうな気がしてならない。
DNAがすべてでベストとはいいにくいが、ツキノワグマの「孤立群」として決めつけてしまう前に、まだまだいろんな方法論と発想力が求められるのではないか。
なによりも、「孤立群」といわれるそこに至るまでの山容の連なりにオイラの視線は動くし、ツキノワグマ自身膨大な個体群の存在をもってDNAを供給し続けていることも忘れてはならない。
日本の山は、連なっている。
その山野に潜行するツキノワグマがいったいどのくらいいるのか、まずはそこに注目しながらその間をつなぐ個体群たちの行動領域を順を追って探り考察していくことが大切なのではないか。
それには、一つの固定観念だけで決めつけてしまって安穏してしまうことはよくない、と思うからだ。

だからこそ、以前にも↓のようなことを書いたまでである。
http://tukinowaguma.net/archives/896

写真:

1)ツキノワグマは、山野のどこでも黙々と歩く。

2)山野のどこにカメラを向けても、ツキノワグマは確実に歩いていることがわかる。

3)アルビノのタヌキの出現プロセスを静かに追ってきたら、30年という時間軸がみえてきた。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

9 Comments

  1. 宮本常一の「山に生きるひとびと」を読むと、古代から明治・大正・昭和に至るまで、いろいろな人達(狩人、サンカ、木地屋、僧etc)が、山中を驚くほど遠方から遠方に移動して生活していましたから、熊だって山の道を移動していてもおかしくないと思うんですが・・・

    Comment by そらとびねこ — 2012/3/23 金曜日 @ 19:55:07

  2. ばんどりさんに1票!

    ひと頃よりは信頼性が出てきたとは思うのですが、何もかも「DNAが物語っている」と決めつける最近の風潮には正直ウンザリです。
    これはかつて「神が造りたもうたものだから」と、考えを止めてしまった(規制してしまった)ことと似ているような気がするのです。
    もちろん、最新の科学ですから否定するつもりはなく、積極的に知りたいと思ってはいますし、話も謙虚に聞いていますが。

    あくまでも野生動物のDNA検査は、フィールドワークと両輪でなければならないと思います。

    Comment by くまがい — 2012/3/24 土曜日 @ 5:38:58

  3. ■そらとびねこ さん
    こちらにも、その昔は山野を縦横無尽に道があったみたいです。
    隣村に嫁に出すにも、3日がかりで山越えをして連れてったという話しを古老から聞きました。
    まだ、車道も無かった時代ですから、人の暮らしなんてここ半世紀で激変してますね。
    そんな、人の道をクマをはじめとする野生動物が100年変わらないスタイルで今でも使っているのです。

    ■くまがい さん
    GPSでツキノワグマを追っている学生と会いましたが、フィールドのことはまったく分かりませんでした。
    自然を体感してきた「幼児体験」がないまま、学生となってから卒論のために動物などやりはじめても絶対に越えられない壁があります。
    もちろん、それを指導する教官だって幼児体験をもってないから自然を見る幅が小さくなって直感力も働かない。
    おっしゃるとおり、フィールドワークができて科学があると、大きく進展するものです。

    Comment by gaku — 2012/3/26 月曜日 @ 23:41:47

  4. 福島の原発周辺に雄牛がいて、交尾が行われているという話しについて、大いに問題があるなと考えていたのですが、放射能問題に関わった内容なので、どのように私の考えを説明したものかと迷っていたのですが、ちょっとタイミングを逸してしまったようですし、内容がブログ主旨とも異なってしまうので、遠慮することにしました。

    こちらのDNAの話しですが、私はDNAは万能ではないと考えています。

    日本には6種類の鮒が生息していますが、東大大気海洋研究所を中心とするグループがDNAによる系統解析を実施した結果、フナ族の魚は「ヨーロッパブナ」「ゲンゴロウブナ」そして「その他のフナ」の3つに大別されるという結果が得られたそうです。
    そして、思わぬ結果として、「その他のフナ」として我が国に生息しているキンブナ・ギンブナ・ニゴロブナ・ナガブナ・オオキンブナの分類方法に合致するDNAパターンが存在しなかったのだそうです。つまり、DNAの遺伝的な分類法では、これらを区別することはできないということなのです。
    これらのフナは、背ヒレの軟条数、鰓の鰓ハ数、体色、体高等で区別されてきていました。それが、遺伝子的には同じフナということになってしまいますからね。

    で、この結果を発表した研究者は、冷静に「DNAパターンが同じなので、同種でした、とも即断はできないのですよ。生き物はまだまだわからないことだらけ。形態的特徴を中心に判断されてきた従来の分類に、新しい比較軸と検討材料が加わったというところです。」と述べているそうです。

    ギンブナには、受精にたよらない単為生殖で自己クローンとも呼んでよいような繁殖が見られるのに、キンブナにはありません。遺伝子的に同一のフナとされてしまうと、ちょっと説明に苦しむことになってしまいます。
    私が思うに、遺伝子の中のどの部分を指標として、増殖させて分析しているのか、マーカーの取り方というのも機会があればお聞きしてみたいものです。
    また、逆に今まで、別種として扱われてきた深海魚が幼体と成体であったりして、同じ魚種であることが判明した例もあるそうです。

    まあ、早い話が、DNA解析が絶対的な揺るぎのないものとするには、まだ早いような気がします。それを裏付けるものが、まだ充分でないということになりますし、その裏づけを欠いている段階では、どちらが正しいと即断することこそを戒めたいというのが、科学する者の姿勢ということになるのでしょう。

    Comment by 匿名 — 2012/3/29 木曜日 @ 17:48:38

  5. プロキオンです、4のコメントは私です。
    ブラウザのIEが、かってにバージョンアップされていて、クッキーに残っているはずのハンドルネームが消えてしまっていることに、気がつきませんでした。

    Comment by プロキオン — 2012/3/30 金曜日 @ 9:39:44

  6. ■プロキオン さん
    中国山地につづく岡山県では、これまでツキノワグマが10頭しか生息していないとまことしやかに言われていました。
    それなのに、2011年には63頭が捕獲されたそうな。
    全体の0.5割の捕獲率でも1200頭以上が生息することになります。
    0.1割の捕獲率なら6300頭。
    いったい岡山県にはどのくらいのツキノワグマがいるのか、これらのDNAはどうなっているのか、を知ってみたいものですね!

    Comment by gaku — 2012/4/9 月曜日 @ 17:27:49

  7. 各々の動物に対するイメージというのも、後から事実に関係なくつくられてしまっていることも多いですよね。

    箱根のニホンザルを調査していたFさんのグループが書いた本には、ニホンザルの群れは、そんなに閉鎖的ではなく、かなり開かれたものであるという記述がありまして、箱根にいたはずの雄サルが波勝崎まで行っていたのを確認した事があったそうです。
    私は、この事が妙に気になって、「高崎山のサル」を購入して読んでみたのですが、高崎山においても、山の中でのニホンザルというのは、かなり自由なものとして記載されていましたし、餌場におけるようなボスザルを中心とした同心円行動は、本来のものではないようでした。当然ながら、雄ザル達の行き来というのも、自由度が高いという内容でした。

    キチンと記載されていることさえ、いつしかイメージどころか内容まですり替えられしまっていることはあるみたいですね。
    最近は放射能に関わる事が、原子力ムラからの巻き返しが眼につくようになってきて、とくにそう感じます。

    私は、放射線取り扱い主任者の免許を取得しているのですが、何事もなかったときに、私が受けた研修内容というのは、昨年来、まるっきり違う世界の話しとされてしまい、本来まかり通らないことが大手を振っています。
    まあ、戦争中に平和のときの基準を持ち出すなということなのでしょうが、放射能についても、内容が変っていくのでしょう。

    Comment by プロキオン — 2012/4/10 火曜日 @ 18:26:26

  8. ■プロキオン さん
    全国的にツキノワグマの個体数把握がもっとも必要とされていますが、たぶんそれもまったく手つかず状態がこれからも続くこと、でしょう。
    オイラもそのうちにツキノワグマから手を引きますが、やがて「ツキノワグマ村」からクマを語る内容がどんどんすり替えられて何も分からずにうやむやになっていくことでしょう、ね!
    それが、日本のクマを語るヒトたちのレベルですから。

    Comment by gaku — 2012/4/15 日曜日 @ 9:19:13

  9. こうして、ああして、こうする必要がある。と思いますか?

    Comment by 匿名 — 2012/6/22 金曜日 @ 3:04:08

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.

このブログへの訪問者