なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2012/1/30 月曜日   ツキノワグマ日記

「くくりわな」とツキノワグマ

昨年の秋のことだった。
知り合いの農家へ出かけたら、こんな話しを聞かせてくれた。

「ウチの裏山で、シカの有害駆除用の「くくりわな」にクマがかかったらしい。あまりにも暴れて危険だったので、その場で射殺したそうだ。
くくりわなにかかって暴れていたのを放獣だなんていって放されても、手負いになってしまったクマだから、ここに暮らしている俺たち家族が不安の日々を送らなければならないのでいい判断だったと思う。
しかし、いつ誰がくくりわなを仕掛けたんだろう?
シカがあまりにも増えているから、これからも、こういうことが続くのだろうな?」

そういえば、これとまったく同じ話を昨夏にも3kmほど南にいった集落で、聞いた。
このときは、親子熊で母親が「くくりわな」にかかっていたそうだ。
母熊を射殺して、子熊は現場に放置して独り立ちを願った、とのことだった。

ニホンジカの激増で、今日ではどこもその対策に追われている。
農家も、自治体も、シカにはほとほと困り果てているのだ。
そこで、有害駆除をするにもハンターの銃器では限界もあり、「くくりわな」の使用が緩和されてきた。
このため、膨大な数のくくりわなが山野に仕掛けられるようになってきている。
その結果、シカ捕獲には一定の効果が出てきているのかもしれないが、この罠にツキノワグマがかかってしまうことも多いのだ。

「くくりわな」は、けもの道に仕掛けるのだから、目的はシカでもあらゆる動物たちが錯誤捕獲をされる可能性はある。
草食獣も肉食獣も、そして、強い動物も弱い動物も等しく同じけもの道を利用するから、ツキノワグマも例外ではない。
このことは、40年も前から「けもの道」という写真集を出して日本の野生動物たちの行動を追ってきているオイラだから、とっくに知っていた。
無人撮影ロボットカメラは、海に仕掛けてある定置網とまさに一緒なのでそこにやってきた魚たちはみんな網にかかってしまうのと同じだからである。

その事実を示すように、ツキノワグマが「くくりわな」にかかってしまうことが長野県下では激増しはじめている。
その新聞紙面がここにあるが、この数字は一部オモテにあがってきたものだけである。
現場判断で内密に殺処分されてしまうツキノワグマの数は、ここには絶対に表れてはこないからだ。
現実に冒頭で聞いたハナシも、オモテには出てこない「うわさ」をオイラもたまたま聞いてしまったまでである。
このような「くくりわな」でのツキノワグマの錯誤捕獲が続き、今後もますます「罠」の使用が緩和されていくと、野生動物の習性を知らないままシロウトがくくりわなを安易に使う機会が増えるので、クマによる人身事故も含めていろんな危険性もでてくることは間違いない。
そして、現場での判断でツキノワグマが内密で殺されていくのだから、今後のツキノワグマ生息数把握に支障をきたすことも容易に見えてくる。

そのためにも、ツキノワグマはいったい何頭いるのか、そして、何頭以下になれば「絶滅」するのか。
そうした基本的な調査をしようとする発想力も技術開発もないまま、安易に「くくりわな」使用が激増してくれば、今後ツキノワグマの正確な生息数がまったくみえてこなくなってしまう。
オイラは、いまからそのことを危惧している。

写真:

1)ツキノワグマが歩いてきたこの「けもの道」は、カモシカもイノシシもキツネもタヌキも利用していた。
この現場にくくりわなを仕掛ければ、そのすべてが捕獲できてしまう。

2)「罠」を仕掛けてあることがこのように明示されていればいいが、まったくの無表示なもののほうが多い。そのような罠にツキノワグマが捕らえられていて山菜取りやハイカーが知らないまま不用意に近づけば、大変な事故になるだろう。

3)こんな足なので、ツキノワグマは「くくりわな」にかかりやすい。

4)だれでもが設置できる規制緩和のサインがこの記事からでも読みとれる。

5)ツキノワグマの錯誤捕獲の数字が表記されているが、このような数字の何倍以上もの数が闇に潜んでいることを想像するべきだろう。

6)「くくりわな」は、人間の靴と比較してみても直径が大きいのでツキノワグマなんてカンタンに捕獲できてしまう。タヌキのような小さな動物なら、2本同時に足をとられることもあるだろう。

7)長野県下のツキノワグマ推定生息数が発表された。10年前と比べているが、10年前の調査方法が完璧だったのか、はなはだ疑問も残る。今回のこの数字もツキノワグマが少ないことを前提としているが、この数字は今後の追跡材料になるので、将来の調査方法の精度そのものが見ものである。と、同時に調査方法の発想次第で個体数なんていくらでも転ぶことを物語っている。
しかも、オイラはこれまでずっとツキノワグマは増えていると言ってきたのに、10年前から「8割」増ということは「激増」ではないか。それなのに長野県関係者はオイラの意見に対して、荒唐無稽として無視しつづけてきたところも面白い。また、当ブログに対して「クマは絶滅する」と信じているヒトたちの反対意見カキコミなどを読み返してみても、面白すぎる。

(from/ gaku )

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3 Comments

  1. お久しぶりです。

    僕もワナの狩猟免許を持っていますが、講習会の時にワナで採っていい動物以外は逃がしてください、と言われました。
    クマなど対象外の動物を捕獲できない構造にはなってるとは言え、絶対はないので不思議でした。
    お役所は現場をわかってないとその時は思いましたね。

    そして、手負いの獣はネズミでも危ない(噛んでくる)ので、本当に危険だと思います。
    想定外はそろそろ終わりにしないといけないですよね。

    Comment by アカネズミ — 2012/1/31 火曜日 @ 23:18:15

  2. 規制緩和で、なれない者が仕掛けることにより、設置の仕方や道具の強度不足により回収時に罠から襲われるような事故が起きる事が心配です。

    罠に掛かった動物は、必死ですから…ましてや、死にものぐるいのツキノワグマの力となると、想像すると恐ろしいです。

    Comment by もっち — 2012/2/1 水曜日 @ 18:55:55

  3. ■アカネズミ さん
    ■もち さん

    ワナの緩和措置も、元はといえばシカの激増からです。
    そのシカに対して、もっと抜本的な発想転換による捕獲方法を考えてもいいものですが。
    どうも、お役所はじめ、ステレオタイプの人間たちにはそのような発想力がないようですね。
    気の毒としかいいようがない日本社会になってしまっています。
    ボクには、いいアイデアがあるのですが、まあ老婆心することもありませんので。

    Comment by gaku — 2012/2/2 木曜日 @ 9:48:52

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