なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/9/17 土曜日   ツキノワグマ日記

ハイテク装置付きツキノワグマの末路

実は、ここ2週間ほどの間にツキノワグマが4頭殺された。
オイラのフィールド内でのこと、である。
合法的なのか、非合法で殺されたのかは定かではない。
とにかく、オイラの信頼できる知人からの情報なので間違いはない。

その4頭の中には、写真のような緑色の首輪にGPS発信器をつけ、左耳には「34」というナンバータグを着けていたものも含まれていた。
このクマは、7月からオイラのカメラによく記録されていたから記憶にのこるオス熊だった。
それが、ぴたりとカメラに写らなくなったから「おかしいなぁー」、と思っていた。
そうしたら、1週間ほどして、1.5kmほど離れたイノシシ檻にはいり殺されたという情報が入ってきた。

ツキノワグマを殺す側には、それなりの理由もあるだろうから、オイラはそこまでは追求するつもりもない。
しかし、「GPS」をつけて調査研究をしているものまで殺さなくてもいいのではないか、と思った。
合法的ならば射殺現場に行政も立ち会っているのだろうが、その辺のところの配慮はなかったのだろうか?
とにかく、ツキノワグマに関してはまだ生態的には分からないことだらけである。
なので、調査中のものまでむやみやたらと殺してしまうようでは、あまりにも心が貧困すぎるような気がする。

もっとも、オイラはこれまでにも述べてきているが、自分のフィールド内でどんなにツキノワグマが殺されようと、中立の立場をとってきている。
それは、ツキノワグマが殺されても殺されても、必ず次の新しい熊たちがフィールド内にやってくるからだ。
それだけ予備軍がたくさんいるということであり、そのことにオイラは強い関心をもっている。
なので、いったいツキノワグマはどれほどの数が居るのだろうか、というのがオイラの最大限の関心事なのである。
だから、穿った見方をすれば、とりあえずは「殺される」こともツキノワグマの全体像を知る意味ではとても大切なデータでもある、と考えている。

このGPS付きツキノワグマが殺されたという情報が入ってきた翌日に、オイラのカメラにはもう「新顔」のツキノワグマがやってきた。
体重が100kgを越える大きなオス熊である。
右の顎には、眼球くらいもあるデキモノができていた。
なので、すぐに新顔とわかったのだが、「GPS付き」がいなくなったことでたった1週間で昇格してきたことのほうに興味がある。
それなのに、このデキモノ付きオス熊も、この撮影の24時間後くらいにはやはり1kmほど離れた場所に設置されていた熊専用「ドラムカン捕獲檻」に入ってしまって殺された、らしい。
そんな情報も、その日のうちにオイラのところに飛び込んできた。
事実、オイラのカメラには、この個体がこれ以後まったく撮影されていないから、殺されたことは疑う余地もないだろう。

このような生々しい話しを書くと、ツキノワグマ愛護に燃えた人たちは猛然と非難してくることだろう。
しかし、オイラはいつも言っているように、日本全体にツキノワグマはいったいどれくらいの数が生息しているのだろうか?
それを調べ知ることが、いまの日本でツキノワグマを語るにはいちばん必要なことだ、と思っている。
ツキノワグマは一体全体何頭いて、何頭まで減少すれば絶滅の道を辿るのか、何頭以上になれば余剰部分を捕殺してもよいのか。
その基礎データとなるものが、この国には何も存在しない、からである。
それでないと、保護するにも、捕殺するにも、前にはまったく進まないと思っている。

そのために、オイラは「クマクール」や「マタミール」を開発し、無人撮影ロボットカメラで最高な技術を独自に修練しながら写真家なのに長野県内だけでも答えを求めようと自分自身に挑戦しているのである。
このようなことを、大学関係の研究者やクマ専門家といわれるような人たち、保護を唱える保護団体などが日本全国で身銭を切って確かな技術できっちりやれば、それは確実にツキノワグマの全体像がつかめるようになるのではないだろうか。
それをやらずして、「保護」一辺倒の観念論だけを振りかざされてもオイラは同じ土俵には上がれない。

ついでに言わせてもらえば、ハイテク装置の「GPS」を使った調査でもその熊一頭の行動域追跡はできても、他の多数の熊たちとの関連性はまったく知ることもできない。
調査熊一頭の100倍以上もいる別個体たちとの関連性を、オイラはやはり見てみたい。
また、ナンバータグを耳に打ち込んで再放獣しても、その後の追跡なんてまったくできてないのが実情ではないだろうか?
さらには、GPSを着けたのなら、その熊の一生を追い続ける技術確立も必要だ。
例えば、ヨタヨタと動きのおかしなクマがいたので撃ってみたら研究用の首輪が食い込んでいた、という猟師の言葉を信じれば、繰り返し再捕獲して装備の点検などもできるようにしたいし、檻以外の捕獲方法だって確立しなければならないだろう。

こうした問題点なども含めて、写真撮影をしているといろんなアイデアが出てくるからオイラは面白くて仕方がない。
そして、どうすればそれが可能なのか、技術的新発想も生まれてきてしまう。
とにかく、黙して語らないツキノワグマを知るには、ちょっとした観察からのヒントによる「ひらめき」を最大限に生かしながら、高い技術力で対応していけばかなりのことが見えてくるからである。
写真撮影も、研究も、まさに「アイデア」だけの勝負のような気がしてならない。
ハイテク装置付きツキノワグマには気の毒だったけれど、オイラが考えるに新たなステップへのデータづくりには一役買ってくれた、と思っている。

写真上から:

1)首輪が気になるのか、さかんに後ろ足で掻いていた。
2)かなり大型のオスである。
3)耳タグは「34」番と番号も読めるし、どこで研究しているのかまで写真から読むことができる。
4)しっかり背筋を伸ばせば、身長が140cmあることもわかった。
5)「マタミール」の結果ではオスであることが、初日からわかっていた。
6)はやくも、1週間後には新顔のオス熊が「クマクール」に記録されたが、この熊も1kmほど離れたドラムカン檻に入ってしまい、すぐに射殺された。
7)右顎には、かなり大きなデキモノができていた。

(from/ gaku )

コメント&トラックバック

8 Comments

  1. (一応)研究者の端くれとしてなかなか耳が痛いです。

    >写真撮影も、研究も、まさに「アイデア」だけの勝負のような気がしてならない

    僕の恩師がとなりのツキノワグマのマタミールを見て、
    現場でこれ使えばいいデータ取れるのにとつぶやいていました。
    現在トップで活躍している研究者の方々は本当にすごい方ばかりだと思うのですが…
    さらに、大学の研究室の卒論やら研究所の中で終わっているアイディアが五万とあるのも事実です。
    また、アイディアがあっても実現する技術がないことも多々あるようです。
    現在は成果主義、短期で出来る研究に重きが置かれている現状ではこういう小さな発想が広まらないのは仕方ないのかもしれません。

    この現状を打開しないことには、DNAも併用した研究をしても生態系の実情を本当の意味で知ることは困難な気がします。

    >ツキノワグマが殺されても殺されても、必ず次の新しい熊たちがフィールド内にやってくる

    どれくらいで移入してくるのか調べて見ると面白そうですね。
    前いた個体がいなくなったらすぐ入ってくるのか?
    それとも、数日たってから突然現れるのか?
    クマの社会的関係などが見えてきそうですね。

    Comment by アカネズミ — 2011/9/19 月曜日 @ 21:03:17

  2. gakuさんが指摘していますように、日本ではツキノワグマの生息数調査がシッカリしていません。

    当地では、幾つかの里山を見てもツキノワグマの生息頭数が多く、行政機関の公表数値はあまりにも小さく、実態と大きく乖離しています。

    生息調査も旧態依然とした調査方法です。調査メッシュを決め、猟友会に一定の期間内に調査するよう依頼していますが、猟友会のメンバーは確かに行動していましたが、途中から山菜取りなどをしながら調査を行っていましたから、あれではダメですね。
    調査した方の言い分もあります。クマを多く目撃した実態を報告しても、とりまとめの方では、この時期はあの場所にクマが集まる、などとの回答をしていて調査結果が数値に反映されない、と聞いています。

    意地悪な見方をしますと、調査・公表機関が自然保護課ですから、生息頭数が大きいと保護動物にはなりませんからね。生息頭数が小さいと好都合で予算にも影響するのかな、と意地悪く思ったりします。

    とにかく、実態に近い生息頭数の把握ができてから、シッカリとした対策ができるのではないでしょうか。

    地球以外に人間が行ける時代ですよ。行政が本気になって音頭をとれば、実態に近い調査が可能でしょう。
    しっかりとした基礎データを作るべきです。

    Comment by akke — 2011/9/20 火曜日 @ 22:05:56

  3. ■アカネズミ さん
    言わんとしていることはよく分かりますが、はっきり言って現代日本で50歳以下の人たちには自然に関する幼児体験がまったくない、とボクは自分自身と比較しながら世間を見ています。
    そんな体験のないまま大人になって自然に興味を持ち、やりはじめても、そこには越えられない大きな「壁」があると思っています。

    机上で、自然に関する本を100冊読んだから「オレは自然のことはなんでも知っているんだ」というような人間は多いのですが、そんな受け売りの知識は「黙して語らない自然界」を探るのに今のフィールドでは何の役にもたちません。

    なので、「シンポジウム」などを見ていても、ほんとうに小さな重箱に入り込んでドングリの背比べ集団が「重箱」から出られずに、自然を語っているようなところが多々見受けられて、ボクは実にオモシロがって高見をしています。
    この姿は、今回の原発事故にも通じる現代人の「自然認識」に共通するものがあり、御用学者のようなのが跋扈して表面的自然観を若者に指導しているあたりはまさに滑稽でもありますし、若者も気の毒でもあります。

    ですから、いまの時代ではセオリーを捨てて、もっともっと大きな複眼的発想力からモノを見る冒険が大切だと思うのです。
    なのでボクは、そのプロセスを楽しんで身銭を切りながら自分の時間を遊んでいるにすぎません。

    ■akke さん
    もう、他人に期待する時代でもない、とボクは思っています。

    akke さんだって、地道に自分でフィールドワークをやっておられますので、もう、ここはオンリーワンでいくしかないと思います。
    他人がやらない、できない、のならば自分で思う存分やってしまうことですね。
    そのほうが、めっちゃ楽しいですよ。
    まさに、写真撮影も「アイデア」次第なので、ボクからのヒントは最大限に生かせると思います。
    講演にでも行きますから、地元でそんな機会をつくってください、な!

    Comment by gaku — 2011/9/22 木曜日 @ 9:25:43

  4. gaku さんへ

    >写真撮影も「アイデア」次第なので、ボクからのヒントは最大限に生かせると思います。
    ・これが旨くいかず、厳しいです。

    >講演にでも行きますから、地元でそんな機会をつくってください、な!
    ・是非来て頂きたい、と思っています。
     でも、今年中は無理かもしれません、次年度でも開催できそうでしたらご連絡します。

     テーマから離れてしまいますが、、、。
     当地、何時も行く低い山では、半径150m位の場所でツキノワグマ3頭が大豊作のミズキを2週間程度集中して食べていました。その内、小型のクマが今日から少し開きかけてきたクリについたのを確認しました。
     しかし、少し離れた、民家近くの平地では落下したクルミを食べています。すぐ近くで2頭を確認しましたが、場所によって、いろいろと食べ物が違うので興味があるところです。

    Comment by akke — 2011/9/24 土曜日 @ 19:30:26

  5. すごい

    Comment by kikiki — 2011/9/26 月曜日 @ 11:42:00

  6. ■akke さん

    よく観察されていますね。
    御地には、相当数のツキノワグマがいることは確実です。
    どんどん、独自のデータだけはとっておきましょう。

    Comment by gaku — 2011/9/29 木曜日 @ 8:49:09

  7. 7月、富山県山中にて首にキツそうな電波発信機を巻かれ、右の耳たぶに番号が読み取れる緑色のタグを着けられた若グマ(推定3歳)に出会いました。そのことを近くにあるビジターセンターのベテラン職員の方に話したところ「多分、(富山)県の自然保護課の調査だと思うけど、どのクマにどんな標識をつけているのか、われわれにも知らせてこない」と言うんです。しかし県はさほど頻繁にテレメトリー調査を行なっている様子はなく(業者委託もしているらしいが姿はあまり見ない)、また民間人にしろ直接観察はテレメトリー調査では得られない情報をもたらす可能性もあるはずだし、大金(税金)をかけていながら、なぜ標識グマの情報公開をしないのか。

    以前にクマの捕獲放獣の見学を申し入れたことがある(=却下)富山県自然保護課に電話で尋ねたところ、単に「情報を公開しようという考え方がなかった」ようでした。クマ調査の目的は「奥山のクマが里へ移動するのかを調べている」とのことです。こういったデータは野生のクマを直接観察したことがないような「先生方」には常時提供されても、肩書のない民間人はなかなか目にすることはできません。秘匿性の高い猛禽類の営巣情報などとは異なり、いわば「県民の安全」のための調査ですから、速やかに公開するよう、富山県民に代わって強く求めておきました。

    また、ご存知の方も多いのでしょうが、GPS発信機については自然脱落するものと、そうでないものがあるそうで、当地では成長過程にある幼獣にはなるべく装着していないそうです。しかしクマは成熟後もさらに大きくなるように思うのですが。いろいろ疑問がありますね。では。

    Comment by ぴかぶうの雇い主 — 2011/10/5 水曜日 @ 11:31:15

  8. ■ぴかぶうの雇い主 さん
    調査にしても、いろんな方法を併用して総合的にやっていくことがイチバンだと思います。
    アルゴスGPSやDNAが「すべて」と思われているようですが、いつもボクが言っているようにそれは「一部」でしかありません。
    別項で述べた「焼印」なども必要だと思います。
    それを、「クマの駅」で継続撮影しながら、別のハイテク調査などと併用していくことも大切だと感じます。

    とにかく、いろんなアイデアと実行力を駆使しながら、現代のツキノワグマを探っていくことですが、森の中を無人カメラで「監視」しつづけることは最低限必要なことと思っています。

    Comment by gaku — 2011/10/18 火曜日 @ 8:55:03

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