満月の夜にツキノワグマを感じるよろこび
今月(8月)も、満月があっという間に通り過ぎていった。
オイラにとって毎月の満月は、とても大切なものである。
それは、満月を境にして前後1週間は夜間観察をさせてもらえるからだ。
ムーンライトは、これほどありがたいものはない。
7×50の双眼鏡で、野生動物の動きをかなりしっかりと観察できるからである。
双眼鏡には手作りの三脚座をつけてあるから、ムーンライトの微光でも三脚に固定していればかなり効率的につかえる。
しかも、遠隔撮影にも使えるスイッチまで双眼鏡にはついているからだ。
この方法で、もう40年以上もオイラは毎月の満月を大切にしてきている。
今月の満月では、中央アルプス山麓の展望の開けた場所から駒ヶ根市内の夜景を撮影していた。
自然界の報道写真家としては、やはり今日の電気エネルギーの使いかたにも興味があるので「地方都市」の意識も記録している、のである。
実は、先月も同じ場所から夜景を撮影していた。
撮影場所は、日常的にツキノワグマの出没地である。
背後の山には、ツキノワグマがたぶん、5頭以上10頭くらいが生息しているのではないかと、オイラは直感的に推測している。
なので、夜間撮影といってもいつも単独だから、熊とのニアミスを避ける意味では警戒だけは怠らないようにしている。
そんな先月の撮影中に、100mほど離れた山中で木の枝が折れる音がした。
生木の音なので、たぶんツキノワグマがヤマザクラの実を食べているのだろう、と思った。
音は数回繰り返されたが、あとはそれっきり静かになった。
それから一ヶ月後の今月になって、改めて音のしてた山腹を昼間見てみた。
そこには葉が真茶色に変色した固まりがいくつか目撃できた。
双眼鏡で確認すれば、それは間違いなくツキノワグマがヤマザクラを食べた「クマ棚」だった。
一ヶ月ほどの時間経過で、ヤマザクラの葉も枯れているのが遠くからでも分かるほどに変化していたのだった。
満月の夜でも、動物の姿を直接観察できなくてもこうして音で野生動物たちのサインを知ることはできる。
それをムーンライトのなかで確認できることは、このうえもない楽しさに通じるものがある。
そんな今月の満月の夜には、ツキノワグマが身近に必ずいると思ったから、撮影中には大声でアカペラをやっていた。
そうしたら、やはり100mほど離れた山中で、オイラが設置している無人撮影カメラのストロボが一瞬光った。
翌日になってカメラのメディアを回収してみると、そこには大きなツキノワグマが写っていた。
時間は、夜の10時24分。
オイラがちょうどアカペラをやっていた時間である。
ツキノワグマはオイラの存在をつかみ、避けるために、迂回していった先で無人カメラに写されてしまったのだった。
満月は、これだから面白いのである。
毎月、ほぼ半分の15日間は楽しめる。
新月の夜でも、それなりに「耳」で自然を楽しむ方法はあるが、オイラの自然観察はこのようにして自然界のすべてを自分のものにしていくのである。
その見えないところを、無人撮影ロボットカメラなどで補い、直接観察というローテク技術とメカトロニクスを駆使したハイテク技術を融合させて結果を生み、その結果を見ながらつぎなる発見へと発想を変えていくのである。
「黙して語らない自然界」を自分のものにするには、やはり、いろんな発想転換と行動力が必要だからだ。
写真:
1)8月15日の満月
2)このレンズは、35mm換算では15mmなのでかなりの広角となっているが、矢印のところから枝の折れる音がしてきた。
3)やっと透かして見える場所からみると四角に囲ったところにクマ棚がみえた。
4)望遠レンズでヤマザクラのクマ棚をみるとこんなカンジ。
5)夜間のオイラの歌声に熊はコースを変更したが、その先には無人撮影ロボットカメラがあった。
「月の魔力」ですね。
私も韓国にカワウソの調査に行くときは、満月を挟んだスケジュールを立てています。
九州の罠猟師が、「イノシシ罠は満月にかける」と話していました。
周囲が明るすぎてしまうためか、ついつい集中力が散漫になるらしく、罠にかかりやすいためだそうです。
Comment by くまがい — 2011/8/21 日曜日 @ 6:33:03
■くまがい さん
「月の魔力」は、おもしろいです。
体験していると、いろんなことが分かってきます。
>ついつい集中力が散漫になるらしく、罠にかかりやすい
分かるような気がしますが、撮影では満月日はまちがいなく成功しません。
やはり、動物たちが遊んでしまいますから。
Comment by gaku — 2011/8/23 火曜日 @ 12:41:31
う〜ん、いい写真だ。キャッチライトまで入った質感に満ちたライティング。いい表情と美しい姿に加えて、背景に漂う「闇」。ツキノワグマの魅力を100%感じ取ることができる写真ですね。GAKUさんの自動撮影装置による写真は、人間がシャッターを押した写真以上にオリジナリティーを感じます。つまりその場に写真家がいなくても、また写真家自身がシャッターボタンを押さなくても、写真のオリジナリティーは出せるということですね。技術も凄いけど、やはり「発想力」が大事だということを写真が証明しています。
そして「月の魔力」ですか。月齢まで計算した上で動物を観察しておられる方々がいるんですね。実は自分も常に7×50の双眼鏡を車載していますが、使うのは専ら「新月前後」。つまり星見用でした。この記事を読んでから月夜がとても楽しみになってきました。ますます寝不足になりそうだなー。では。
Comment by ぴかぶうの雇い主 — 2011/10/5 水曜日 @ 19:30:26
■ぴかぶうの雇い主 さん
写真の道具をボクは公開していませんが、まさかといった工夫をほどこしてやってます。
過去にカメラの盗難も何回か経験してますので、そんな苦いことへの対応も最近はぬかりなく実行中です。
いまの時代の監視カメラはものすごく精度が高いから、安くて高性能で結果も出せるというものです。
あの、「6億円強奪犯人」が簡単にメンが割れるほどですから、やはりいまの光学技術はスゴイと思います。
双眼鏡にしても、カメラにしても、ストロボにしても、要は使い方次第だと思っています。
Comment by gaku — 2011/10/18 火曜日 @ 9:03:57