なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2011/8/5 金曜日   ツキノワグマ日記

ミツバチ好きの熊には二つのタイプがある

昨年の今頃だった。
知人のイトちゃんがあわてふためいて電話をよこした。

「おーい gakuさんよぅ オラんちに夕べ熊がきたぜ。
ミツバチを襲っていったけれど、まだ密を食べてないので今夜もくると思う。
カメラを設置してくれやぁー。
夜中にガラスの割れる音がしたので、オラは飛び起きただよ。
それで、懐中電灯をもって部屋から庭を照らしたら熊がのっこらのっこらケツ振って逃げていくところだった。
今朝ミツバチを見たら、巣が2つともひっくり返されていた、さぁ」

イトちゃんは、ニホンミツバチを庭で2つ飼っていた。
その2つの巣が、ツキノワグマに襲われたのだった。
ガラスの割れる音は、雨避けにミツバチの巣の屋根に使っていたのがひっくり返された拍子に割れたからだった。

さっそく現場を見にいけば、巣箱にはたくさんのミツバチたちが固まって意気消沈していた。
まだ密蝋が食べられずにあるから、クマは必ずまたやってくるとイトちゃんはいう。
しかし、熊はそれっきりこなかった。

ミツバチを襲うのだから、熊はてっきり「ハチ蜜」を欲しくてやってくるものとばかり誰もが思っていた。
だが、熊の目的は蜜ではなくて、ミツバチの幼虫だったのだ。
2つの巣ともに、巣に蜜は残り、幼虫の詰まっていた巣房だけがそっくりなくなっていた。

蜜ではなくて幼虫を食べたくて熊がやってきたのは、一つの発見だった。
蜜を求める熊と幼虫だけを求める熊の2タイプがあることを、このとき我々は知ったからだ。
このことは、ミツバチを襲うというツキノワグマの行為には、肉食系と蜜系の二通りの読みをしなければならない、ということが今回分かったからである。

それにしても、イトちゃんがニホンミツバチをいつから飼っていたのかはオイラも知らなかった。
今回、こうして熊の襲撃が明るみになって、その飼育状況のズサンさにはたまげるものがあった。
自宅の居間から直線で5mという近さにミツバチの飼育箱が置かれていたからだった。そのどちらにもツキノワグマは深夜にやってきて、飼育箱をひっくり返していく大胆さがあったからだ。
しかも、イトちゃん宅には部屋の中で4人が寝ていた。
それなのに、ツキノワグマは堂々とやってきた。
このことは、蜂蜜にしろ幼虫にしろ、熊は確実にミツバチを襲いにくることを証明していた。

これまで、ツキノワグマによる人身事故現場をオイラは数多く取材してきているが、ミツバチに関連する重大事故は多い。
それも、死亡事故につながりかねないほどの大きな事故もかなり発生しているから、ニホンミツバチ飼育は確実にツキノワグマを呼び込むと思っている。
だから、ミツバチ飼育者は、確実にツキノワグマがやってくることを想定しておかなければならない。
このことは、オイラは常々思い言ってきていることである。

しかし、家族に重傷者が発生したというのに、飼育者本人は事故をまったく学習していないのもこれまた面白い特徴である。
ミツバチ飼育が原因で身内に大けがをした人がいるというのに、ミツバチ飼育をやめるどころか、さらに飼育箱を増やしている現場をみたこともある。
この心理には、ほんとうに感心するやらあきれるやらであるが、老婆心はやはり飼育者本人にとってウザイことのようだからオイラもそれ以上は言わないことにしている。

イトちゃんも、熊に襲われたミツバチ箱をすぐに庭から軒下に上げた。
たったそれだけで、今年も相変わらず飼育を続けている。
周囲には人家もあることだし、観光地なので夜間だって人も出歩くこともある。
オイラの危惧が今年も再燃されなければいいが、8月を迎えてその時期が迫ってきている。
この時期が、ツキノワグマはもっともミツバチの巣へやってくるからだ。

写真:
1)けやきの根元は、この熊の通り道だった。
2)熊は矢印のようにミツバチ箱をひっくり返した。
3)幼虫をごっそり獲られて、意気消沈している働きバチたち。
4)伊那谷では、人家ちかくに、このようにミツバチ箱を設置してある家を多くみかける。
5)熊の襲撃を受けた養蜂家は、イントレを組んでミツバチ箱を二階へあげるところが増えてきた。これも、ミツバチ飼育の文化史といえるが、熊はそれでもやってきてイントレに泥足のサインをつけていく。ミツバチを飼育すること自体が、熊を呼んでいることは確かだ。

(from/ gaku )

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5 Comments

  1. 僕がちょくちょく食べに行く小料理屋の女将が登山が好きだと知り 熊の存在や宮崎学さんの話をよくします。その女将が ツキノワグマ事件簿を読み 宮崎学さんに魅力を感じていましたぁ〜(o^-‘)b
    40才独身の美人ですよぉ〜(*^_^*)
    もちろん すぐにとなりのツキノワグマを貸しちゃいました。

    Comment by 下別府勇次 — 2011/8/5 金曜日 @ 17:02:38

  2. ■下別府勇次 さん
    小料理屋、女将、40歳独身、美人…
    なんだか、うれしくなるキーワードばかりで、ここはぜひお目にかかりたいものです、ね!!

    Comment by gaku — 2011/8/8 月曜日 @ 20:46:43

  3. 幼虫目当てのクマ!!!初めて聞きました。そして身の引き締まる思いです。
    ミツバチの巣、犬の散歩コースにあります。
    近所の人が散歩する道沿いの畑の中に数箱。
    クロスズメバチ用の巣箱が果樹園内に5箱置いてありました。
    この2箇所は当分、散歩コースから外そうと思います。
    巣箱置いてる人はクマなんて出ないと思っているんでしょうね。

    Comment by kana — 2011/8/9 火曜日 @ 21:51:50

  4. ■kana さん
    自然環境のいい場所での犬の散歩は、細心の注意が必要です。
    とくに、林野付近には近づかないことですね。

    クロスズメバチもクマは大好物ですので、飼育されている現場を見つけたら周辺住民が自分自身で身を守ることを考えるしかありません。
    ハチ飼育に憑かれてしまった人には、何をいっても聞く耳もたずですから、身を守るのは自分です。

    Comment by gaku — 2011/8/11 木曜日 @ 9:55:17

  5. gakuさん、ありがとうございます。
    巣箱のある果樹園は斜面沿いにクルミの木が茂る森と隣接してます。
    要注意ですね。避けてます。

    Comment by kana — 2011/8/12 金曜日 @ 16:08:34

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