ツキノワグマは学習を重ね行動を変えていく
ツキノワグマの行動把握を目的に設置してある無人撮影カメラは、いまのところいちばん長いもので3年間である。
これだけの時間を設置してみると、いろいろな発見もある。
そのひとつに、熊たちの学習能力の発見だ。
いくら無人撮影カメラといっても、ストロボが光るものだから、ツキノワグマだって心穏やかではない。
「けもの道」を通るたびにカメラが作動してストロボの洗礼をうければ、熊だってその体験を学習していくからである。
「ここは、あやしいぞ」といった表情の熊が、時間を追うほどに増えていくことにも気づくからだ。
そして、カメラの場所を微妙に避けて行動するようになるのだった。
はじめのうちは、そんなことはないと思っていたが、設置後2年目くらいからメインストリートでのツキノワグマの記録が少しずつ減っていくようになった。
「おかしい」とは思っていても、まあそのうちに慣れていくだろうとも考えたが、そうではないのである。
だから、3年目ともなれば確実にカメラの前のルートを変えていくものもでてくる。
なので、まずは2年間が同一地点でのいいデータがとれるものと考えるようになった。
そこで、こちらもカメラを微妙に動かしていくのであるが、そうすればツキノワグマも再び記録されるようになるのだから、これは確かな事実である。
まあ、学習能力の撹乱をはかればいいのであるが、これにはツキノワグマのことを相当に知っていて心理作戦をとらなければならないので、誰にでもできるというものでもないだろう。
もっとも、最高技術の無人撮影自動カメラといっても、大きな自然界のなかにあっては、たった2mの範囲にツキノワグマが入ってきてくれなければ撮影もできない。
それはまさに、自然界にあって針の穴をピンポイントで突くようなもので、至難の技がいることだけは確かである。
どんなに機材システムが優秀であっても、ツキノワグマの「けもの道」を確実に見極める目というものがなければ、無人撮影カメラシステムも最大限の力を発揮することはできないからだ。
そんなことが分かってきたので、3年目のカメラをそろそろバラして再設置を考えている。
長い間ツキノワグマのことを考えて目撃していると、彼らとて相当に頭脳をつかって日々行動していることがよく分かる。
こうした能力は、ツキノワグマだけではなくて、あらゆる野生動物にもいえることだからである。
これは、ロボットカメラという分身術をつかってフィールドを日々こなしている者でないと分からない野生動物の心理把握であるが、その心理のさらに裏をかき先読みするのも「黙して語らない自然界を知る」技術なのだといえる。
写真:雨の夜間、タグ付きの母親の後ろを必死について歩く小熊の表情には真剣さがみられる。この耳タグの番号も写真判定で確実に読めることができるようになっているが、タグ付きの個体は鈍感なものが多いのか、撮影に対する学習能力にも低いものがある。
これに対して、ノーマークの個体のなかにはほんとうに学習能力にたけた警戒心の強いものもいることはたしかだ。とくに、オスの個体に敏感なものが多い。
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