なぜツキノワグマは人を襲うようになったのか?自然の変化を鋭く見つめ続けてきた動物カメラマン宮崎学が送る新メッセージ
2010/3/6 土曜日   ツキノワグマ日記

ツキノワグマが庭先まできているのに…

伊那谷の林の一角に小さなオーガニックレストランがある。
そのレストランは、子供たちになるべくよい本を見せようと数百冊の絵本などを並べてもいる。

あるとき、ボクはこのレストランへ食事に出かけた。
窓辺のテーブルからは、手を伸ばせば木々の枝をつかまえることができた。
もちろん、それらの木々は林の奥まで続いていた。

主人は、ボクが何冊もの出版物があることを知っていたので、かなり親しげに話しかけてきた。
そして、いろんな会話のあとで、
「ここのレストラン脇にもクマがくるから、夜間などの外出はほんとうに注意してくださいね」、
とボクは言った。
すると主人は、
「そんなバカなぁー クマなんてこんな場所には来ない…」。
さも、いい加減なことをボクが言っているような目つきで、否定した。

こんな人にクマなど野生動物の話をこれ以上してもムダだと思ったから、ボクは話題をそらした。
しかし、このレストランから300mのところには、実際にはツキノワグマが何回もきている場所がある。
もちろん、通学路だって近くにあるし、ボクはツキノワグマの行動力を知っているから、認識を新たにしてほしくて言ったまでだ。
それなのに、子供にはよい絵本を、食生活はオーガニックを、と理想だけは高い。

同じ伊那谷という風光明媚で自然環境の豊かなところに生活していながら、こんなにも足元の自然環境を見ていないのか、とあきれてしまった。
自然は、アフリカの草原やアラスカ、カナダの森林帯にしかないと思っているレストランのご主人。
この意識ギャップこそが、ボクには事件だと思った。

いつから、日本人はこうまで自然を見れなくなってしまったのだろうか。
よい「絵本」だと思っている数百冊の蔵書そのものが、もはやここではムダなことだと思った。
たくさんの自然環境が足元にあるというのに、地域住人がここのレストランへやってきて親子で「絵本」を読んで表面面だけで満足していくのかと思うと末恐ろしさをも感じた。

ちなみに、ここには、ボクの本は一冊もなかった。
それで、いいのだが。

写真上から:
1)矢印のところまでツキノワグマは平気でやってきている。もちろん、ここは道路も人家もレストランも公園も、ある。この写真の中だけでも4万人強の人口があるが、誰一人として野生動物たちがどこを歩き回っているかなんて考えたことのある人間はまずいないだろう。
2)ふだん見慣れている風景でも、ちょっと雪が降れば、「けもの道」がくっきりと見えてくる。この道をツキノワグマも歩く。こうしたちょっとした視点から自然界を考え発想し、無人カメラが無理ならヘアートラップなどを仕掛けて探ってほしいものだが、田舎の人間とて現代社会では意識が退化家畜化されてしまっているから期待するのも無理だろう。
3)里のケヤキの元に遊びにきた子熊。100m先には通学路がある。

(from/ gaku )

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